幕間 女子会道中
魔皇城バルルモラを出発して、数時間。
三人は馬車に揺られながら、襲撃を受けた都市へ向かっていた。
目的地までは、まだ少し距離がある。
窓の外には、魔国の広大な平原が流れていく。
緊急任務ではある。
しかし――。
『……ねぇ。』
ラピートが唐突に口を開いた。
『何ですか?』
ヴァンテージが書類から顔を上げる。
ラピートはニヤリと笑った。
『八冥王って、誰が一番カッコいいと思う?』
『…………。』
ヴァンテージの手が止まった。
向かいに座るヴィラージュも、静かに顔を上げる。
『……突然ですね。』
『だって暇なんだものぉ♪』
『任務中ですよ?』
『移動中くらい、いいじゃなぁい。』
ラピートは楽しそうに身を乗り出す。
『ねぇねぇ。誰が一番タイプ?』
ヴァンテージは困ったように眉を寄せる。
『そういう話は……。』
『ちなみにアタシは決まってるわよ。』
『早いですね。』
『魔皇様。』
即答だった。
ヴァンテージとヴィラージュは顔を見合わせる。
『……それは全員一致ですね。』
『当然じゃなぁい♪』
ラピートは胸を張る。
『あんなに強くて、威厳があって、しかもお顔もいいのよ?』
『文句のつけようがないわぁ。』
ヴァンテージも小さく頷く。
『確かに……魔皇様は別格ですね。』
ヴィラージュも微笑む。
『異論はありません。』
三人は揃って頷いた。
しかし。
ラピートが指を一本立てる。
『でも、二番目よ。』
『二番目ですか?』
『そう。魔皇様は別格だから除外。』
『じゃあ、八冥王の中で誰が一番カッコいいかよぉ。』
ヴァンテージは少し考えた。
『……そうですね。』
『私は――』
そこで一瞬、言葉を止める。
『ゲクシー様、でしょうか。』
ラピートが目を丸くする。
『あらぁ!?』
『意外ねぇ!』
『そうですか?』
『もっとセンチュリー様とか、ヴィルフェイエ様とか言うと思ったわぁ。』
ヴァンテージは苦笑する。
『センチュリー様は確かに素敵ですけど……。』
『ゲクシー様は、あの真っ直ぐな感じがいいんです。』
『戦場でも迷いがないというか……。』
『なるほどねぇ。』
ラピートはニヤニヤしながら頷いた。
『つまり、ヴァンテージは熱血系が好きなのねぇ♪』
『そ、そういう言い方はやめてください!』
ヴィラージュがクスクス笑う。
『でも、分かる気がします。』
『ヴィラージュもゲクシー様ですか?』
『私は――』
ヴィラージュは少し考える。
『……秘密です。』
『えぇ!?』
ラピートが身を乗り出す。
『そこまで話しておいて秘密はダメでしょう!』
『そうですよ。ヴィラージュ、教えてください。』
二人に詰め寄られ、ヴィラージュは困ったように微笑んだ。
『本当に秘密です。』
『怪しいわねぇ。』
『何がですか?』
『絶対誰かいる顔してるもの。』
『そんな顔、してませんよ。』
『してるわぁ。』
ラピートは腕を組んでヴィラージュをじっと見つめる。
ヴァンテージも横から覗き込む。
『……まさか。』
『はい?』
『コアード様ですか?』
『…………。』
ヴィラージュが黙った。
その瞬間。
ラピートの目が大きく見開かれる。
『えぇぇぇぇっ!?』
馬車が揺れるほどの声が響いた。
『ちょっと、ラピートさん!』
『コアード!?』
『声が大きいです!』
『だってぇ!!』
ラピートはヴィラージュへ詰め寄る。
『あのコアード!?』
『……はい。』
ヴィラージュは観念したように小さく頷いた。
『まぁ……その……。』
『実は、少しだけ。』
『少しだけって何よぉ!!』
ラピートは頭を抱える。
『あの無口で真面目で、ずーっと難しい顔してるコアード!?』
『はい。』
『意外すぎるわぁ!!』
ヴァンテージも驚きを隠せない。
『私も意外でした……。』
『でも、分かる気もします。』
『え?』
『ああいう方って、普段は感情を表に出さないじゃないですか。』
ヴィラージュは窓の外を見ながら、柔らかく微笑んだ。
『だからこそ、たまに見せる優しさが素敵なんですよ。』
ラピートとヴァンテージが同時に黙る。
『…………。』
『…………。』
そして。
『……なるほど。』
ラピートが腕を組んで頷いた。
『それは分かるわぁ。』
『ですよね。』
『意外と渋いところを突くじゃなぁい、ヴィラージュ。』
『ふふっ。』
三人は顔を見合わせ、笑った。
『じゃあ、センチュリー様は?』
ヴァンテージが尋ねる。
ラピートは待ってましたと言わんばかりに胸を張った。
『もちろんアタシよぉ!!』
『でしょうね。』
『即答ですね。』
『だって、あの紳士的な態度!』
『あの強さ!』
『あの落ち着き!』
『そして何より――』
ラピートはうっとりと目を細めた。
『拳で全部解決しちゃうところが素敵なのよぉ♪』
『そこなんですか!?』
ヴァンテージが思わず突っ込む。
ヴィラージュも笑いを堪えきれない。
『ラピートらしいですね。』
『あらぁ、何よぉ。』
『とっても分かりやすいです。』
『いいじゃない。男は強い方がいいのよぉ♪』
『では、ラピートさんはセンチュリー様。』
『ヴァンテージはゲクシー様。』
『そして私はコアード様。』
ヴィラージュが指折り数える。
『綺麗に分かれましたね。』
『じゃあ、次は――』
ラピートが楽しそうに笑う。
『八冥王以外なら誰がいい?』
『まだ続くんですか!?』
ヴァンテージの声が馬車の中に響いた。
三人の笑い声が重なる。
緊急任務の最中とは思えないほど、穏やかな時間だった。
やがて馬車の速度が落ちる。
御者の声が響いた。
『間もなく目的地です!』
三人は顔を見合わせる。
ヴァンテージが表情を引き締めた。
『……さて。そろそろ仕事ですね。』
ヴィラージュも頷く。
『はい。』
ラピートは立ち上がり、巨大な身体を軽く伸ばした。
『女子会はここまでねぇ。』
そして、ニヤリと笑う。
『さぁて――悪い子たちを片付けに行きましょうか♪』
馬車の向こうに、襲撃を受けた都市の城壁が見えてきた。
三人はそれぞれの表情を引き締める。
束の間の笑いの時間は終わった。
ここからは、魔皇の側近としての仕事である。
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