1話ー③ 宣戦布告
ヴァンテージは息を整える間もなく、深く頭を下げた。
『火急の要件にて、作法についてはご容赦願います。』
『構わん。申せ。』
『ご報告いたします。聖族軍、およそ三万が国境を侵犯。国境周辺の村々は襲撃を受け、被害は拡大しております。さらに敵軍は占拠した村に橋頭堡を築き、我が魔国領への本格侵攻に備えております。』
玉座の間に重苦しい沈黙が流れる。
しかし、ヴァンキッシュだけは薄く笑みを浮かべていた。
その微かな変化を見逃さなかったのは第一席センチュリーだけだった。
『魔皇様……いかようになさいますか。』
その問いを皮切りに、八冥王が次々と口を開く。
『お下知さえ頂ければ、このゲクシーが敵軍を一人残らず殲滅してご覧に入れます。』
『ふふ……それも悪くありんせんが、わっちなら敵の指揮官を操り人形にしてしまえますえ。』
妖艶な笑みを浮かべたヴィルフェイエに、アレディフェが静かに頷く。
『わたしも、ヴィルフェイエ姉さまのお考えに賛成です。』
ラングエルドとコアードは何も語らず、ただ主君の決断を待つ。
玉座の間は再び静寂に包まれた。
やがて参謀ヴォランテがヴァンキッシュの傍らへ歩み寄る。
『魔皇様……策は成りました。』
その一言に、ヴァンキッシュは静かに頷く。
ゆっくりと立ち上がり、八冥王を見渡した。
『皆の具申は聞き届けた。』
『……だが、これはすべて私の読みどおりだ。』
八冥王の視線が一斉に集まる。
『聖族は、我らを世界の敵に仕立て上げたかった。』
『だから私は、欲深き者どもの眼前に餌を置いてやった。』
『奴らは自ら、それに食らいついた。』
誰一人として声を発しない。
センチュリーをはじめ八冥王は、尊敬と畏怖の入り混じった眼差しで魔皇を見つめていた。
稀代の謀将――。
その言葉こそ、今のヴァンキッシュを最もよく表していた。
ヴォランテは八冥王へ静かに視線を送り、口元に冷笑を浮かべる。
『我らの掌の上で踊らされているとは……聖族も夢にも思いますまい。』
ヴァンキッシュは静かに口を開いた。
『策は成った。』
『大義名分も得た。』
『振りかかる火の粉は、払わねばならぬ。』
わずかな沈黙の後、その声は玉座の間に重く響く。
『――準備せよ。』
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