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5話ー④ 妖族と会談

東方要衝都市マーチ――。


戦場から少し離れた迎賓館の応接間。


窓からは穏やかな庭園が広がり、小さな滝の流れる音だけが静かに響いていた。


しかし、この部屋に流れる空気は庭園とは対照的に張り詰めている。


円卓を挟み、一人の男が静かに待っていた。


魔皇軍参謀――ヴォランテ。


机上には茶器が二つ。


すでに湯気は立ち上っていた。


やがて扉がゆっくりと開く。


『失礼いたします。』


案内役に続き、一人の妖族が姿を現した。


長身の体躯。


背には漆黒の翼を畳み、鋭い眼光を宿しながらも、その立ち居振る舞いにはどこか上品さが漂っている。


妖族高官。


天狗種――愛山太郎坊。


ヴォランテは静かに立ち上がり、一礼した。


『このたびは会談に応じていただき、ありがとうございます。愛山太郎坊殿。』


愛山太郎坊も穏やかな笑みを浮かべる。


『なんのなんの。』


『こちらも必要があると判断したまでです。』


『本日はよろしくお願いいたしますぞ。』


二人は席へ着く。


互いに笑みを浮かべてはいる。


しかし、その笑みの裏では互いの腹を探り合っていた。


ヴォランテが静かに口を開く。


『妖族国内も、なかなか意見が割れているようですね。』


愛山太郎坊は苦笑した。


『さよう。』


『穏健派と交戦派。』


『両者の対立は日に日に激しくなっております。』


『このままでは、いずれ妖族そのものが割れかねません。』


ヴォランテは興味深そうに頷く。


『失礼ながら、お聞かせ願えますか。』


『なぜ、ここまで対立することになったのでしょう。』


愛山太郎坊は茶を一口含み、豪快に笑った。


『ハッハッハッ!』


『構いません。』


『いずれ貴殿も知ることになるでしょう。』


少しだけ表情を引き締める。


『始まりは、聖族を中心とした反魔族連合です。』


『あの巨大な連合が生まれたことで、妖族国内にも動揺が広がりました。』


『交戦派は申しました。』


『長いものには巻かれるべきだ、と。』


『聖族へ従えば妖族は生き残れる、と。』


ヴォランテは黙って耳を傾ける。


『実際、聖族は強大です。』


『その背後には賢族がおり、小人族も物資支援を行っております。』


『国力だけを見れば、聖族側へ付く方が得策と考える者が現れるのも無理はありません。』


『ゆえに交戦派が勢力を伸ばした。』


『それが今の妖族です。』


ヴォランテは静かに頷いた。


『何とも難しい話ですね。』


『ですが、だからこそ私はここへ参りました。』


愛山太郎坊は細めた目でヴォランテを見つめる。


『ほう。』


『それで、魔国は何を望まれる。』


ヴォランテは一切迷うことなく答えた。


『妖族との停戦。』


『そして、妖族が中立を宣言されることです。』


応接間に沈黙が落ちる。


愛山太郎坊は指先で茶碗を軽く回しながら笑みを浮かべた。


『なるほど。』


『つまり、東方戦線を一つ消したいということですな。』


『率直で結構。』


ヴォランテも微笑みを返す。


『率直さも外交には必要です。』


『互いに腹の探り合いばかりでは、前へ進みませんから。』


愛山太郎坊は愉快そうに笑う。


『嫌いではありませんぞ、その考え方。』


『ですが、停戦を受け入れるには理由が必要です。』


『交戦派を納得させるだけの土産がなければ、我ら穏健派も動けませぬ。』


ヴォランテは頷く。


『承知しております。』


『まず一つ。』


『双方の軍を国境線から一定距離まで後退させることを提案いたします。』


『偶発的な衝突を防ぐためです。』


愛山太郎坊は顎に手を当てる。


『悪くありませんな。』


『続けてください。』


『次に、停戦期間中に発生する戦費負担への配慮。』


『さらに交易路を再び開き、以前よりも利益率を引き上げます。』


『妖族にとっても利益となる条件を提示する用意があります。』


愛山太郎坊の目がわずかに細くなった。


『ほう……。』


『そこまで考えて来られましたか。』


『もちろんです。』


『我らは停戦だけを望んでいるのではありません。』


『互いに利益を得られる関係を築きたいのです。』


愛山太郎坊は少し考え込む。


やがて、静かに口を開いた。


『では、こちらからも条件を。』


『停戦だけでは交戦派は納得しませぬ。』


『交易利益の保証。』


『戦費への補填。』


『そして妖族の面目を保てる形。』


『それらが必要になります。』


ヴォランテは迷うことなく答えた。


『一つずつ詰めて参りましょう。』


『今日ここで全てを決める必要はありません。』


『重要なのは、互いが歩み寄る意思を持つことです。』


愛山太郎坊は豪快に笑った。


『ハッハッハッ!』


『なるほど。』


『魔皇軍参謀とは、ただ知略に優れるだけではないようですな。』


『貴殿とは面白い話ができそうだ。』


ヴォランテも穏やかに微笑む。


『ありがとうございます。』


『では――互いに折衷案を模索してまいりましょう。』


『双方にとって最善の未来のために。』


二人は静かに笑みを交わした。


まだ何一つ決まってはいない。


しかし、この握手なき会談こそが、東方戦線の未来を大きく左右する最初の一歩となるのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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