4話ー⑥ 『ワンズマイトブロー』
カシマシは巨大な戦斧を握り締め、全身に力を込めた。
その肉体から放たれる威圧感は凄まじい。
一歩踏み出すだけで大地が震え、巨木の葉が舞い落ちる。
『来い……八冥王。』
低く唸るような声が戦場に響く。
対するセンチュリーは微動だにしない。
静かに立ち、ただカシマシを見据えていた。
やがて、ゆっくりと腰を落とす。
右足を半歩引き、重心を深く沈める。
全身の力が、一点へと集約されていく。
その静かな構えに、カシマシは本能的な危機を感じた。
『……何だ、その構えは。』
嫌な汗が頬を伝う。
逃げろ。
戦士として積み重ねてきた経験が、そう叫んでいた。
だが、退くことはできない。
退けば、獣族軍総大将としての誇りを失う。
『うおおおおおおおっ!!』
己を奮い立たせるように咆哮し、二本の戦斧を振り上げ、一気に間合いを詰める。
巨体とは思えぬ速度。
一撃必殺の間合い。
だが――。
センチュリーは静かに口を開いた。
『――ワンズマイトブロー。』
踏み込む。
それだけだった。
爆発的な踏み込みとともに放たれた右拳が、一直線にカシマシの腹部へ吸い込まれる。
ドンッ――。
鈍く、重い衝撃音。
次の瞬間。
カシマシの身体が大きくのけ反った。
『……な……。』
腹部には、拳大の風穴が穿たれていた。
鮮血が静かに滴り落ちる。
戦斧は力なく地面へ落ち、鈍い音を立てる。
カシマシは自らの腹を見下ろし、震える声を漏らした。
『何が……起き……た……。』
理解できなかった。
拳は一度しか見えなかった。
防ぐ暇も、避ける暇もなかった。
ただ、一撃。
それだけで勝負は終わっていた。
センチュリーは拳を静かに下ろす。
その表情は変わらない。
まるで当然の結果であるかのように。
『良き武人でした。』
『だからこそ、全力で応えました。』
カシマシはゆっくりと膝をつく。
『……見事……だ……。』
その言葉を最後に、巨体は前のめりに倒れた。
轟音とともに、大地が揺れる。
戦場は静まり返っていた。
獣族軍の兵士たちは、誰一人として声を発することができない。
目の前で起きた光景を、理解できなかった。
『……カシマシ様が。』
『総大将が……。』
『たった……一撃で……?』
恐怖だけが、ゆっくりと獣族軍を包み込んでいく。
一方、魔皇軍も歓声を上げる者はいなかった。
ただ静かに、その背を見つめている。
驚きはない。
歓喜もない。
彼らにとって、それは当たり前の光景だった。
八冥王第一席――センチュリー。
その拳は、魔皇軍最強の一角。
敵将を一撃で討ち取ることなど、何一つ不思議ではなかった。
センチュリーは倒れたカシマシへ一礼すると、静かに獣族軍を見渡した。
その視線だけで、誰一人として前へ出ることはできなかった。
戦場を支配していたのは軍勢ではない。
ただ一人。
八冥王第一席、センチュリーという存在そのものだった。
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