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4話ー⑤ 猛将象人のカシマシ

ヴィルフェイエの策は、静かに、そして確実に獣族軍を蝕んでいた。

捕虜として解放された兵が味方へ刃を向ける。

原因は分からない。

敵の法術なのか、それとも裏切りなのか。

誰にも答えは出せなかった。

昨日まで肩を並べて戦っていた仲間にさえ、疑いの目が向けられる。

「本当に信用していいのか。」

その一言が、獣族軍全体へと広がっていた。

本来であれば、互いの背を預けて戦う獣族たち。

しかし今は違う。

誰かが窮地に陥っても、一瞬だけ助けることをためらう。

その一瞬の迷いが、魔族には十分すぎる隙となっていた。

戦線は徐々に押され始める。

獣族軍本陣。

総大将カシマシは戦況図を見つめ、静かに目を閉じた。

『……これ以上、小細工に付き合う必要はない。』

周囲の将たちが顔を上げる。

『このままでは兵の心が先に折れる。』

『ならば――』

彼はゆっくりと立ち上がった。

『私が出る。』

その一言だけで、本陣の空気が変わった。

誰も異を唱えない。

獣族の象人最強。

獣族随一の怪力を誇る猛将。

カシマシが動く。

それは獣族軍最後の切り札を意味していた。

巨大な体躯。

全身を覆う分厚い筋肉。

両手には、常人では持ち上げることさえ叶わぬ二振りの巨大な戦斧。

軽く振るうだけで轟音が響き、巻き起こる風が草木をなぎ払う。

斧の刃先が地面をかすめれば、大地は紙のように裂けた。

獣族兵たちは、その背を見つめる。

『総大将……。』

『カシマシ様なら……。』

『必ず勝ってくださる!』

歓声が戦場へ響いた。

一方、魔皇軍。

最前線で静かに戦況を見つめていたセンチュリーは、その巨大な姿を捉えると、わずかに口元を緩めた。

『ようやく、お出ましですか。』

その声音には退屈が終わったことへの喜びすら滲んでいた。

ヴィルフェイエが小さく笑う。

『随分とお待ちになっていましたものね。』

『ええ。』

『この戦場で、ようやく"戦う価値のある相手"が現れました。』

センチュリーは静かに前へ歩き出す。

兵たちは自然と道を開けた。

誰一人として止めようとはしない。

第一席が歩む先に敗北はない。

それが魔皇軍の共通認識だった。

やがて二人は互いの姿を視界へ捉える。

ゆっくりと歩み寄る。

一歩。

また一歩。

互いの間合いまであと数歩。

同時に足を止めた。

風だけが二人の間を吹き抜ける。

先に口を開いたのはカシマシだった。

『……貴様。』

『相当の使い手と見た。』

巨大な戦斧を肩へ担ぎながら、低く問いかける。

『武人として、名を聞こう。』

『私は獣族軍総大将。』

『象人、カシマシ。』

その声は堂々としていた。

己の名に誇りを持つ者だけが放てる響きだった。

センチュリーは静かに頷く。

『礼節を重んじるのですね。』

『嫌いではありません。』

そう言うと、胸へ右手を添えた。

『私は魔皇軍八冥王第一席。』

『センチュリー。』

その名を聞いた瞬間。

カシマシの表情が僅かに引き締まる。

目の前の男から放たれる威圧感。

殺気ではない。

怒気でもない。

ただ立っているだけで感じる、圧倒的な存在感。

本能が警鐘を鳴らしていた。

――危険だ。

戦士として積み重ねてきた経験が、そう告げている。

だが、その恐怖を悟られるわけにはいかない。

カシマシは戦斧を構え、大きく息を吸い込んだ。

『……なるほど。』

『これほどの威圧感を放つ相手は初めてだ。』

『だが、それでも私は獣族軍総大将!』

『退くわけにはいかぬ!!』

雄叫びが戦場を震わせる。

『オオオオオォォォッ!!』

獣族軍の兵たちも一斉に声を上げた。

センチュリーは、その咆哮を静かに受け止める。

そして、わずかに微笑んだ。

『実に見事な覚悟です。』

『だからこそ、お相手しましょう。』

『ですが……。』

その瞳が静かに細められる。

『私の名を覚えていただく必要はありません。』

『あなたには、その時間が残されていないのですから。』

その一言で、戦場から音が消えた。

獣族兵も魔族兵も、固唾を呑んで二人を見つめる。

西方戦線。

誰もが、この一騎討ちが戦局を左右すると悟っていた。

静寂を破るのは、どちらの一撃か。

戦場を包む緊張は、極限へと達してい

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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