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第4話ー③ 心変わりのヴィルフェイエ

センチュリーの放った一撃――『ブロークンインパクト』。

その衝撃は獣族軍先鋒を飲み込み、大地には巨大な裂け目が刻まれていた。

土煙がようやく晴れる頃、獣族軍には大きな動揺が走っていた。

『先鋒が壊滅だと……!?』

『たった一撃で、あれほどの兵が……。』

ざわめきが広がる中、獣族軍総大将カシマシは冷静に戦場を見つめていた。

『動揺するな。』

低く響く一声で、周囲は静まり返る。

『ここは我らの庭だ。』

『平原で押し合う必要はない。森へ誘い込め。』

『獣族の真価を見せてやれ。』

『はっ!』

命令は瞬く間に各部隊へ伝えられた。

やがて獣族軍は正面からの進軍を止め、森の中へ散開していく。

その動きは実に素早い。

木々の間を駆け抜け、枝から枝へ飛び移り、姿を消していく。

森は獣族にとって、生まれ育った庭そのものだった。

『左から来るぞ!』

『いや、右だ!』

『上にもいる!』

魔皇軍へ四方八方から獣族兵が襲いかかる。

鋭い爪が振るわれ、槍が突き出される。

一撃を放つと、すぐさま森の奥へ消える。

一撃離脱。

森の地形を熟知した獣族ならではの戦法だった。

だが――。

『甘い。』

魔族兵の一人が剣を払う。

火花が散り、獣族兵の攻撃は受け流された。

別の場所でも魔族兵は盾で爪を受け止め、反撃の一閃を放つ。

獣族兵は辛うじて身を翻し、その場を離脱した。

『……仕留めきれん。』

獣族兵が舌打ちする。

地の利はある。

奇襲も成功している。

それでも魔族兵は倒れない。

屈強な肉体。

優れた戦闘技術。

一対一では、魔族が上回っていた。

数に任せても押し切れない現実に、獣族軍は少しずつ困惑を覚え始める。

一方、魔皇軍もまた苦戦していた。

『橋頭堡を築け!』

『森を制圧するぞ!』

号令とともに魔族兵が森へ足を踏み入れる。

しかし、その瞬間だった。

『右だ!』

『伏せろ!』

木々の陰から矢が放たれる。

別の方向から斧が飛び出す。

さらに頭上から獣族兵が飛び降り、鋭い爪を振るう。

『くっ……!』

魔族兵は受け流し、迎撃する。

だが敵は深追いしない。

攻撃を終えると、また森の奥へ消えていく。

その繰り返しだった。

戦線は膠着し始めていた。

その様子を後方から眺める一人の女性。

ヴィルフェイエである。

『ふふ……。』

『さすが獣族。』

『森の使い方は見事ですね。』

副官が口を開く。

『ヴィルフェイエ様、このままでは橋頭堡の構築に時間がかかります。』

『ええ。』

『だからこそ、私の出番です。』

彼女は視線を戦場の片隅へ向けた。

そこには、先ほどセンチュリーの一撃を受けながらも、奇跡的に生き延びた獣族兵たちがいた。

重傷を負い、意識も朦朧としている。

ヴィルフェイエは静かに歩み寄る。

『安心してください。』

『私は、あなたたちを助けに来ました。』

甘く優しい声。

獣族兵たちの瞳から警戒が消えていく。

紫色の妖しい光が、ヴィルフェイエの瞳に宿った。

『眠りなさい。』

『そして、私の声だけを覚えて。』

獣族兵の瞳から意思が消える。

ゆっくりと立ち上がった彼らは、ヴィルフェイエへ跪いた。

副官が息を呑む。

『……成功しましたか。』

『ええ。』

ヴィルフェイエは妖艶な笑みを浮かべた。

『でも、まだ操りません。』

『帰してあげましょう。』

『帰す……のですか?』

『もちろん。』

『敵陣へ戻れば、彼らは何事もなかったかのように振る舞います。』

『ですが、その心はもう私のもの。』

彼女は扇子で口元を隠した。

『敵の情報を運び。』

『必要な時には、敵を混乱させる。』

『一人、また一人と増やしていけば――。』

『最後には、敵は自ら崩れていきます。』

その笑みは美しく、そして底知れなく恐ろしかった。

『戦とは、剣で斬るだけではありません。』

『心を奪うこともまた、勝利への道。』

森ではなお剣戟が響き続ける。

しかし、その裏側では誰にも気づかれることなく、もう一つの戦いが始まっていた。

ヴィルフェイエは静かに微笑む。

『さて……。』

『最後の決め手となる一手のために、少しずつ"心変わり"を増やしていきましょう。』

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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