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4話ー① 西方戦線 5千の軍勢

西方戦線――。

魔国と獣族領の境界には、どこまでも深い森が広がっていた。

視界を埋め尽くすほどの巨木が連なり、大地は緑の天蓋に覆い隠されている。

風が木々を揺らし、葉擦れの音だけが静かに響いていた。

その森を抜けた遥か先。

ぽっかりと開けた広大な平原が姿を現す。

そこには、獣族軍六万が整然と布陣していた。

獣族特有の屈強な肉体。

槍、斧、大剣を携えた戦士たちが幾重にも列を成し、その数は地平線の彼方まで続いている。

旗印は風になびき、雄叫びは森を震わせていた。

その光景を、一つの崖の上から静かに見下ろす軍勢があった。

魔皇軍。

わずか五千。

数だけを見れば、勝敗は火を見るより明らかだった。

普通の将ならば退却を考える。

兵たちも恐怖に震えるだろう。

だが、この場にいる魔族たちには、そのような感情は微塵も存在しなかった。

誰一人として俯かない。

誰一人として動揺しない。

敗北を考える者もいなければ、苦戦を想像する者すらいない。

あるのはただ一つ。

勝利。

それだけを信じて疑わぬ者たちが、静かにその時を待っていた。

その先頭に立つ男は、崖の縁へ歩み寄る。

漆黒の外套を風になびかせ、眼下に広がる六万の軍勢を見渡した。

八冥王第一席――センチュリー。

その隣には、妖艶な笑みを浮かべるヴィルフェイエが静かに立っている。

さらに数名の副官や伝令兵が控え、誰一人として口を開かなかった。

沈黙すら、この男の威厳を際立たせていた。

やがて一人の伝令兵が跪く。

『センチュリー様、ご報告いたします。』

『申し上げます。前方に布陣する獣族軍、およそ六万。現在も陣形を維持したまま、こちらの出方を窺っております。』

センチュリーは報告を最後まで聞き終えると、小さく頷いた。

『……六万か。』

その声には驚きも焦りもない。

まるで予定どおりであるかのように淡々としていた。

ヴィルフェイエが口元を隠し、くすりと微笑む。

『随分と歓迎してくださるようですね。』

『歓迎というには少々物騒ですが。』

センチュリーは視線を逸らさぬまま答えた。

『数を揃えたところで、勝敗は決まらぬ。』

その一言だけで、周囲の魔族兵たちの士気がさらに高まる。

彼らにとって、センチュリーの言葉は絶対だった。

勝つと言えば勝つ。

それだけの実績と力を、この男は積み重ねてきたのである。

ヴィルフェイエは森の向こうを眺めながら静かに尋ねた。

『では、始めますか?』

『ええ。』

『私はいつでも構いません。』

センチュリーはゆっくりと振り返る。

五千の魔族兵たち。

誰もが無言で彼を見つめていた。

その瞳に宿るのは揺るぎない信頼。

センチュリーは短く告げる。

『諸君。』

その低く響く声が森へと広がる。

『敵は六万。』

『対する我らは五千。』

兵たちは静かに耳を傾ける。

『数だけを見れば、我らは圧倒的不利だ。』

一拍置き、彼は続けた。

『だが、それがどうした。』

その言葉に兵たちの表情が変わる。

『強者とは数ではない。』

『一人ひとりの力。』

『統率。』

『覚悟。』

『それら全てにおいて、我らは敵を凌駕している。』

静寂。

誰一人として声を上げない。

だが、その胸には熱い闘志が燃え上がっていた。

センチュリーはゆっくりと右拳を握る。

『この戦は、我らが獣族領へ橋頭堡を築く第一歩となる。』

『我が武をもって、開戦の合図としよう。』

そう言うと、彼はヴィルフェイエへ視線を向けた。

『ヴィルフェイエ。』

『よいか。』

ヴィルフェイエは優雅に一礼する。

『もちろんです。』

『いつでも。』

その妖艶な笑みは、既に戦場のさらに先を見据えていた。

『捕虜ができれば、あとは私にお任せください。』

『敵は外からではなく、中から崩して差し上げます。』

センチュリーは小さく頷く。

『任せる。』

次の瞬間。

彼は崖の縁へと歩み出た。

眼下には六万の獣族軍。

そして、その拳が静かに握られる。

魔皇軍五千。

獣族軍六万。

数では測れぬ戦いが、今まさに始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。もし「続きが気になる」「おもしろい」と思ってくださったら、ページ下部の【ブックマークに追加】や、評価の値【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、毎日の執筆と更新の大きな励みになります!次回は、明日【21:00】に更新します。

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