第八話 葬儀部屋
この人たちに当たるのは、間違ってる。でも、頭の中はグチャグチャで、息が苦しかった。
「どうしてっ!? なんで、みんなが殺されるんだよっ!!」
「絶対に捕まえる! 約束するよ!」
二条さんの声が、耳に届いた。
目を真っ赤にして、俺を見つめながら、もういちど言った。
「必ず犯人を逮捕する。だから、待っててくれないか?」
「……」
「尚也くんと、ご家族の為に。オレ達が必ず捕まえるから」
二条さんのまっすぐな眼が、俺の激情を少しだけ静めてくれた。
「……絶対に?」
「ああ。約束するよ」
「……っ」
俺がうなずくと、二条さんもカクタ刑事も、安心したようだった。
本当は、もっともっと叫んでしまいたかった。けど、そんなことしたって、何にもならない。
誰かを困らせても、家族には会えないって分かっていた。
俺、どうすればいいの?
答えてくれるはずの母さんも父さんも、もういない。俺はただ、歯を食いしばって耐えるしかなかった。
+ + +
それから後のことは、思い出したくない出来事ばかりだった。
警察署で一晩過ごしたあと、児童相談所の一時保護所へ移る。母さんよりも若い女性の職員が担当になって、葬儀の段取りや、これから入る養護施設のことを説明してくれたけど、現実味がなかった。
通夜の前に、いちどだけ家に帰ることができた。
二条さんと女性の職員が付き添うなか、静まりかえった家の中で、荷物をまとめる。
少しの着替えと、学校で使う教科書や筆記道具は小さな段ボールに詰めた。友達とよく遊んだゲーム機と、音楽プレーヤーとイヤホン。いつもの赤いショルダーバッグに入れて、肩から提げる。
それから家族のアルバム。父さんからもらったエプロン。母さんが誕生日に買ってくれたスニーカー。ユイの白いウサギのぬいぐるみ。絵本に出てくるキャラクターで、ユイのお気に入りだった。それも、一緒に段ボールに詰める。
本当は家族の持ち物をぜんぶ持って帰りたかった。けど、居場所のない俺には、両手で持てるだけの荷物しか、持ち帰れなかった。
悲しみに暮れるなかで、冷たい現実とも向き合うことになる。
身内だけの通夜も、女性の職員がずっと付き添った。
母さんの両親はもう亡くなってる。母さんの年の離れたお姉さんは、家庭の事情で通夜には来られないらしい。
父さんの両親は施設に入ってて、持病で外出できない状態だから葬式も来られないと連絡があった。
それなのに、父さんと仲の悪かった叔父夫婦が、いそいそとやってきた。
大げさな言動で同情しながら、俺に馴れ馴れしく話しかける。
「兄貴も、気の毒になあ。お前も、施設に行くのはイヤだろう? うちで引き取ってやるから、心配するな」
「そうよ。うちは小さい子もいるから、寂しくないわよ」
無神経な言葉にカッとして、叔父に言い返した。
「叔父さんは、父さんと仲悪かったくせに! 悲しいなんて、思ってないだろ!」
「何を言ってるんだ。たった一人の兄貴だぞ? 悲しいに決まってる」
口ではそう言うくせに、ちっとも悲しそうじゃない。
「兄貴の忘れ形見だ。うちでちゃんと世話してやるから」
叔父の目には、憐れみではなく、汚い欲望が見えた。
父さんの遺産を狙ってるんだ。店も土地も、父さんの持ち物だ。それが財産になることも、俺には分かる。
俺が子どもだから、丸め込もうとしてるんだ。
とっさに、辺りを見渡した。葬儀部屋の入り口近くに、スーツ姿の二条さんがいる。捜査で忙しいはずなのに、来てくれたのだ。
心配そうな顔で、こっちを窺っている。
「二条さんっ!」
「おいっ!」
「尚也くん」
駆けよると、二条さんは俺を背中に庇ってくれた。
「すみませんが、尚也くんに近づかないで下さい」
「なんだテメェは!」
「警察です」
二条さんが警察手帳を見せて、叔父を威圧した。
「今、尚也くんは児童相談所の保護下にあります。あちらの女性が、担当の職員です」
「児童相談所だと?」
「尚也くんを興奮させるような言動は、控えて下さい」
二条さんが鋭い声で続けた。
「これ以上、強引に迫るようなら、警察として対応せざるを得ません」
叔父の前に立ちはだかる二条さんは、俺を守ってくれる。
警察署では頼りない新米刑事だと思ったけど、今は心強かった。
「オレはコイツの叔父だぞ! 兄貴の店とか家とか、相続の話がいるだろうが!」
「この場でする話ではありません」
きっぱりと断る二条さんに、叔父が顔を歪めた。忌々しそうに俺をにらんで、踵を返す。
ホッと息を吐いた、そのときだった。
葬儀部屋を出ていく叔父夫婦が、ヒソヒソと話すのが聞こえた。
「ねえ、あの子引き取って、うちの婆さんの介護させるって言ってたじゃない。どうするのよ?」




