61.SS:みんなで下着を買いに行くよ! 前編
「そろそろかな?」
カラオケの次の日。
私は近隣のショッピングモールへと足を延ばした。
よく考えたら、お休みの日にみんなに会うのは初めてな気がする。
スマホで時計を確認すると、時計は11時。
そろそろ待ち合わせの時間だ。
「ゆうなちゃーん、おっはよーっ!」
「ひ」
ぶんぶんっと手を振って現れたのは、エリカさんである。
高校一年生にしてモデルをしている彼女は、まずその私服から違った。
オフショルダーのトップスに、長めのスカート、それにサングラス。
どこからどうみても、ただものじゃない。
「おまたせーっ!」
まるで大型犬のように駆け寄ってくるエリカさん。
その眩しさに目をやられそうだ。
周囲の人々もエリカさんに釘付けである。
そりゃそうだ、きれいなんてものじゃない。
それに、オフショルダーでデコルテが出ていて、肌色が多いせいもあるだろう。
『おい、あれ、誰?』
『ちょっとぉ、なんで他の女見てるのよ?』
『いや、芸能人だろ、すげぇ』
『はぁ? ふざけんなし!』
危うく近くにいたカップルの仲を引き裂きそうなルックスだ。
女神さまみたいである、ショッピングモールに似つかわしくないけど。
「えへへー、私、こういうとこ来るの初めてだから、すっごく嬉しい!」
「おぉう……そうですか」
実を言うと、エリカさんにはとある高級デパートの下着屋さんを提案されたのだ。
しかし、恐れ多すぎるということで私になじみ深い、地元で買い物しようとなった。
「ゆうなちゃんもかわいいねぇ! ……うーん、かわいいねぇ!」
「いや、えと、ありがとうございます?」
白状しよう。
私は自分で服を買ったことがない人間なのである。
じゃ、どうやって私服を手に入れているかというと、お姉ちゃんのおさがりをもらっているのだ。
だって、店員さんに話しかけられたらびくっとするし、話しかけるのも緊張するし。
通販で買っても失敗することが多い。
結果として、身長が同じくらいのお姉ちゃんが厳選したものを着ているのだ。
「エリカ、あんた、ベタベタしないの」
「あ、透子さん! お、おはようございます」
「とーこ、おっはよー!」
「おはようございます、ゆうなさん」
続いて現れたのは透子さんだ。
すらりとした体型の透子さんは私の憧れだ。
どんな服で現れるのかと楽しみにしていたのだが、大いなる違和感が私を襲う。
Tシャツに花柄のパンツ、というカジュアルな服装だ。
しかし、Tシャツに「ほっといてください」と書かれているのだ。
どういうつもりでこれを着てきたのか、ネタなのか、本気なのか、対処に困ってしまう。
まるで外国の人が秋葉原でノリで買ったみたいなTシャツだ。
花柄のパンツも微妙にもんぺみたいな丈な気がする。
いや、透子さんぐらいの美少女なら、何を着ても似合うっていうのはわかるんだけど。
「とーこ、あんた、また見ないうちに腕を上げたんじゃなーい?」
「この服のこと? まぁね、パンツは曾祖母のおさがりなの。空襲から生き延びた、勝負服ってわけ」
「勝負服かぁー! すごーい!」
エリカさんはこんな時でも全肯定である。
すごい、私は必死に笑顔を作っているって言うのに。
曾祖母ってひぃおばあちゃんってこと?
お下がりをもらえるのもすごいけど、履くのもすごい。
空襲から生き延びたのはすごいと思うけど⋯⋯。
「ゆうなさん、私服も……その、素敵ですね?」
「あ、いえっ、透子さんも素敵ですよっ!」
しかし、小心者の私は透子さんの服装について詳しく尋ねることなんてできない。
できるわけがないっ!
それに、透子さんが気に入って今の服を着ているのなら、それでいいじゃないか。
本心から「ほっといてください」って思っているわけでもないし。
「ごめんごめん! お待たせなのじゃ!」
透子さんのセンスにある意味脱帽していると、最後の一人が現れた。
「ふみふみ、おっはよー!」
「ふみ、一分遅刻よ」
「ふみさん、おはよ……うございます」
振り返ると立っていたのは、ふみさんである。
ふみさんは実はすごくオシャレな人なのだ。
学校に持ってきている小物類もかわいいし、バッグもかわいい。
独自の世界観を持っているタイプのお洒落さんなのである。
私服はどんな感じなのだろうと期待を込めて振り返った私はふたたび衝撃に包まれる。
厚底ブーツに、フリフリの黒いシャツ、ミニスカート、首元にはチョーカー。
もう完全に中二病を今、この瞬間やってます、みたいな服装だった。
よく見ると、シャツにはよくわからない英文(Darkness is my soulmate, and you?)が書かれている。
軽く感動を覚えてしまった私なのである。
いや、見ようによってはおしゃれなのだ、すごくいい生地だと思う。
「ほほう……、ゆうなさんもなっかなかのファッションセンスなのじゃなぁ」
「あぁ、いえいえ、ふみさんも、お似合いです!」
とはいえ、ふみさんは自分の哲学をもって、ゴスロリっぽい服を着ているのだと思う。
そうだよね、人間は自分の好きな服を着ればいいよね!
勝手に驚いて、勝手に納得して、そそくさとショッピングモールに入る私なのである。
でも、本当の戦いは、ここからだ。
下着売り場の恐怖が、私を待っている……。
果たして、私は自分にぴったりの下着を買うことができるのだろうか?
あれ?
誰か忘れている気が……。
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