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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第二章 ASMR系Vtuberの私、陰キャのはずがMV作るとか無理すぎます!?
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46.思い切って「通話」することにしました! え、通話ですか!?

「ただいまー、あ、お姉ちゃん、今日はいたんだ」


 帰宅している間も、私の頭の中はミュージックビデオの件でいっぱいだった。

 Spring Worldさんは信頼できる人なんだろうか。

 無償でいいって、ちょっと虫の良すぎる話ではないだろうか。

 色んな疑問が浮かんできて、ぐるぐると回る。


 マンションに入って、玄関のドアを開けると、お姉ちゃんがいるのを発見する。


「おっかえりー、そりゃー、基本的には家にいるよ? 配信者してるんだし」


「いや、最近、忙しそうだから珍しいなって思って」


「まぁねー。来月のイベントもあるし、歌の練習もしなきゃだからねー。正直、きついわ。大学辞めよっかな」


「えぇえ、もったいないよぉ」


 姉は高校生の時にオーディションに合格して、それから配信者を始めた。

 しかし、その間も学業と両立をして大学に合格したのだ。

 勉強もあんがい得意な自慢の姉なのである。


 それにしても、来月のイベントって、あぁ、告知でも言っていた歌のライブイベントのことだろうか。

 少しだけ胸の奥がちくりとする。


「まー、やれるだけやろうって思ってるけど……。てか、ゆうな、何か悩んでることでもある?」


「え、いや、べ、別に……」


 私の姉は異様に勘が鋭い時がある。

 VTuberとしてはガサツで通っているけど、野生の勘みたいなのが時折働くのだ。

 実は、姉に相談することも考えてはいた。

 実際にオリジナルソングを何曲も歌っているし。


「何か迷ってることがあったら、独り言でいいから言ってみなよ。お姉ちゃん、ただ聞いてあげるから」


「そ、それなら……いいけど」


 姉は時たま、こんな風に、面白い言い回しをする。

 別に相談っていうほど、深刻なものではないのだ。

 ただ、迷っていることを整理したいっていうのが大きい。


 私は思い切って、姉の前で独り言をいうことにした。

 Spring Worldさんという人からメッセージがきて、一緒にMVを作らないかと言われていることを。


「なるほど、なるほど。それじゃ、お姉ちゃんも独り言、言おうかな。で、ゆうなは、いや、悠木ゆめめちゃんはどうしたいのかな? 歌に挑戦したいの? それとも、今のままASMRだけでいいの?」


 お姉ちゃんはズバリ核心をついてきた。

 そう、私に歌を歌いたいのか問うてきたのだ。


『それじゃ、ゆめめちゃんは、これからもASMR、頑張ってくださいねっ! 癒し枠、大事ですしっ』


 頭の中に、うたうさんから言われた言葉が浮かんでくる。

 悪気のない無意識の言葉だと思うし、うたうさんに悪感情を抱いているわけじゃない。

 彼女の言葉を通じて、私は思ってしまったのだ。

 私はASMRだけを一生続けていきたいのかはわからないってことを。

 ASMRは大好きだけど、少しだけ自分の幅を広げてることもしてみたい。


 ごくりと唾をのむ。

 この決断はひょっとしたら、私のASMRを楽しみにしてくれている人たちへの裏切りになるのかもしれない。

 だけど、動き出した心は止めることができなくて。

  

「……つ、作ってみたいかも」


「そっかぁ、作ってみたいんだ。でも何かひっかかってることがあるの?」


「でも、Spring Worldさん自体、会ったこともないし、信頼できるかもわからないし」


「ふむふむ。だったら、その人と一回、通話してみたら?」


「つ、通話!?」


「そ。やっぱり、自分の声で話してみるのって全然違うからさ。相手も血の通った人だってわかるし。まー、朝比奈ぴなさんも、曲作りの前には一応、通話でミーティングとかしてるみたいだし」


 姉の、いや、朝比奈ぴなの言うことには一理あった。

 そうか、すぐに決める必要はないのだ。

 その人がちゃんとしてそうか、信頼できそうか、通話の方が把握しやすいかもしれない。


 しかし、しかし、である。

 私は、私は電話が苦手なのだっ!


 お姉ちゃんは昔から電話ではきはき受け答えをしているけど、私はまるで逆。

 基本的に電話の呼び出し音が鳴ると、びくっとしてしまうタイプである。

 あぁうう、どうしよ。

 

「……怖い?」

 

 姉の問いかけに、無言でこくりと頷く。

 見ず知らずの人との通話なのだ。

 さすがに怖くないなんて言えない。


「よし、それじゃ、お姉ちゃんが後ろについてあげるよ」


「えぇ!? わ、悪いよぉ」


「大丈夫。それに変な奴じゃないか、お姉ちゃんも見極めてあげるからさ」


「あ、ありがとっ! 助かる、助かります!」


 お姉ちゃんはやっぱり最高に頼りになる。

 そして、お姉ちゃんがいるなら、私だって一歩を踏み出せる。


 「よし……!」と小さく自分に言い聞かせ、スマホを手に取る。


 指先は震えていたけど、それでも、私は歌を歌ってみたい。

 私はさっそく、Spring Worldさんにメッセージを返すのだった。




◇ その時、春野セカイ御一行は?



「ひ、ひィ!? こ、こんなん出ましたケドぉ……」


 春野セカイは悲鳴を上げた。


『初めまして、悠木ゆめめです。丁寧なご提案、ありがとうございます。ミュージックビデオについてすごく関心があります。一度、通話にて楽曲のイメージやスケジュールなどについて、確認させていただければ幸いです。15分程度で構いませんので、お時間を頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願い致します』


 悠木ゆめめから、彼女の性格を如実に反映したかのような丁寧なメッセージが届いていた。

 メッセージを送ったのは今日の昼過ぎ。

 まさか今日中に返事が来るとは思ってもみなかった。


「さすが、ゆめめ様……。メッセージでもすごく品があるわね」


「えー、なんか、羨ましい、これー」


「確かに一理ある」


 春野セカイがスマホを示した先には、三人の女子高生の姿があった。

 朝霧透子、鏑木エリカ、そして、加賀見ふみである。

 彼女たちは春野セカイとともに、ファミレスに来ていたのだ。


「……ど、どうします!? わ、私、通話、苦手です。通話で罵倒されたら、私、心臓が止まるかも」


 通話という言葉にあからさまにうろたえるのが春野セカイだ。

 彼女はそもそも通話どころか、あらゆる対面でのコミュニケーションが苦手だった。

 通話、それはリアルタイムで言葉をかわすこと。

 タッチパネルのない飲食店を避けてきた人間にとって、それはもはや死刑宣告に近い。


「落ち着きなさい。ゆうなさんはそんなことしないから」


 朝霧透子はそう言うも、少しだけ渋い顔をする。

 春野セカイを通話させるのはかなりリスキーに思えたからだ。

 あらぬことを口走って、提案を台無しにされかねない。


「じゃあさぁ、あたしが代わりに話してあげよっかー? 通話好きだし―」


「エリカさん、神様!」


「あんたじゃ、ばれるでしょうが」


 鏑木エリカは根っからの明るい性分である。

 誰かと話すことが好きだし、通話になんの抵抗もないようだ。

 しかし、さすがに毎日顔を合わせているクラスメイトであり、バレる可能性が高い。

 そもそも、音楽のことについて話すのだ、当事者でない限りボロが出る。

 誰かが替え玉をするのは危険だ。


「しょうがないわね、こうなったら……すべてのセリフは私たちが指示するわ。セカイさんはそれに基づいて喋ってみて」


「カンペを見るってことかー」


「な、なるほどぉ……!」


 さすがの春野セカイでも、セリフを読み上げるだけならいけるだろう。

 しかし、問題はまだ残されていた。

 

「でも、声でバレるんじゃね?」


 そう、声である。

 藤咲ゆうなは春野セカイと何度も言葉を交わしている。

 正体がバレる可能性が高い。


「あのぉ、私、ボイスチェンジャーアプリ持ってます。それをパソコンにつないで通話モードにすれば、声を変えられるかも」


「ナイスアイデア!」


「えへへへ、褒められた」


「それじゃ、さっそくメッセージを返しましょう。早ければ今日でも大丈夫だって」


 春野セカイはさっそくメッセージを返す。

 ここにおいて少しカオスなMV制作ミーティングが幕を開けるのだった。

 このとき生まれた曲が、のちに『伝説の曲』と呼ばれることになるなんて、その場にいた誰も、まだ知らなかった。



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