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ASMR系VTuberの私、ぼっちのはずがなぜかクラスの美少女に溺愛されてます!  作者: 海野アロイ
第二章 ASMR系Vtuberの私、陰キャのはずがMV作るとか無理すぎます!?
44/62

44.朝霧さん、春野セカイをスカウトします!?

「お仲間って……えと、そのぉ、なんでしょうか?」


「えー、この期に及んでしらばっくれるー?」


 エリカは裏表がない。

 基本的に言いたいことを言ってしまうタイプなのだ。

 世間一般的にはそれをバカだと言うが、極めつけにバカなことを目の前でやってくれた。

 彼女は春野セカイがゆうなさんの正体に気づいたのかを尋ねたのだ。


 春野セカイは勘が鈍いのか、それともはぐらかしているのか、よくわかってない顔をしている。


「セカイちゃんもASMR好きなんでしょー?」


「じゃ、じゃあ、もしかして、皆さんも、そのぉ、藤咲さんの正体に気づいているとか? 皆さんも、ゆうなさんのASMRを愛好されてると!?」


 春野セカイはこちらの顔色を窺いながら、そう言う。

 ビンゴだ、どうしよう。

 この女、ゆうなさんの正体に気づいてしまった。

 

「……そうよ。あなた、牢屋に入りたくなければ、ゆうなさんの正体について言いふらさないことね」


「ひっ、ろ、牢屋!?」


「間違えたわ。あなたの性犯罪は初犯でも執行猶予はつかないから、女子刑務所ね」


「ぐ、具体的になってる!?」


 こんなことはしたくないけれど、私は釘を刺すことを忘れない。

 ゆうなさんの正体を知った人間を野放しにはできないのだ。

 もちろん、正体を触れ回るような行為に出るなら、物理的に釘を刺すつもりだ。


「うわ、出たよ。お得意の脅迫」


「うっさいわね。そうでもしなきゃ、この変態がとんでもないことをしでかすでしょうが!」


 同じく釘を刺された、ふみが囃し立てる。

 あんた、どっちの味方をしてるのかしら。


「てか、セカイちゃんさー、スライム以外に何かやましいことやってないよねー?」


「ひぇ、そ、そんな滅相もないですよ? 私はただの悠木ゆめめさんの一介のファンで、教育実習生の身分をたてにあんなこととか、こんなこととか、してないですよぉ。私、小心者なので!」


 ぷるぷると震えながら弁解を始める春野セカイ。

 さっきもそうだったが、絶対に何か隠しているリアクションだ。

 そもそも、自分のことを小心者だという小心者に会ったことはない。

 この女、意外と大胆だし。


「セカイちゃん、あたしがいるうちに話しちゃった方がいいよー? とーこだったら、骨じゃすまないからさー。あたしは全然、セカイちゃんのこと理解してあげれるしー」


 エリカは春野セカイに腕を回してほっぺたをつんつんとつつく。

 この女の無邪気に懐に入っていく技術は本当にすごい。

 めったなことでは怒らないし、天然の人たらしだと思う。


「な、なんか、私、すごいモテてる。ひ、ひへへ、私、前世ですごい徳を積んだんですかね? ひょっとして、これ、ゲームの中の話? オタクなのに、三人の美少女JKに愛されすぎて困ってます的な……」


「この状況、モテてるっていうのと違うと思うぞ?」


「妄想はいいから、話しなさい。怒らないから」


「ひぃいいい!? も、もう怒ってますよね!?」


 春野セカイがどこか遠くの世界に行こうとしたので、あわてて現実世界に引っ張り込む。

 エリカの包容力は見習いたいところだが、今はそうも言っていられない。

 この女の所業を判断しなければならないのだ。


 ギルティなら?

 その時は私も覚悟を決めなければならない。


「怒らないから、正直に言って」


「えと、その、お、私、個人的に音楽をやってまして。いや、趣味程度で素人に毛が生えたぐらいなものですけど。それを、そのぉ、藤咲さんのに聞いてもらえたらなって思いまして……」


「思いまして?」


「ピアノ版を聞いてもらったんです。そしたら、褒めてもらえて。私は才能のないクズですけど、それでもゆめめさんに聞いてもらえて、私、嬉しくて。ゆめめさんにずっと支えられてたから、ぐす……」


 春野セカイは言葉の途中で涙を流し始める。

 どうやら、自分の曲を聞いてもらうことが彼女の目的だったらしい。

 想像したよりも、よっぽど健気な行動だ。

 少しだけ面喰ってしまう。


「えー、普通じゃん? ふみも似たようなことやってたよねー? 描いた漫画を音読してもらってたじゃんー」


「うぐっ!? そ、それは、作家って言うのはそういうもんなの!」


「へえぇえ! ふみさんは、ま、漫画を描かれるのですね! ひへへ、わ、私も昔、漫画家志望でした。絵心なくてすぐに辞めましたけど、えへへ」


「声でかいし、一緒にしないでくれない?」


「ひぇええ、オタク同士、仲良しになれると思ったのに!?」


 春野セカイはエリカの後ろにさっと隠れる。

 私からすれば、ふみも春野セカイも同じ穴の狢だ。

 いや、実を言うと、私もゆうなさんに教科書を音読してもらったことがある。

 人には絶対に言えないけど。


「でもさー、セカイちゃん、どういう曲作ってるのー?」


「普通に気になるわな」


「ひ、いえ、そんな、皆様に聞かせるような曲じゃないですよ。お耳を汚すと申しますかですね」


「……興味あるわね。私たちも聞かせてくれる?」


 一つ気になることがあるとすれば、彼女の曲をゆうなさんが褒めたということだ。

 推しが褒めた曲なら、私だって聞いてみたい。

 もっとも、ゆうなさんのことだから社交辞令で褒めた可能性も大いにある。


「じゃ、じゃあ、そこまで言うならですよ? ま、しょうがないかなぁってことで聞かせてあげてもいいですけど? 私の曲、そんな聞きたいですかぁ? 困りましたねぇ、えへへ」


「うわ、めんどくさっ」


「やっぱり止めましょ」


「セカイちゃん、正直すぎて引くよー」


「す、すみませんっ! 調子に乗りました! で、できればでいいので聞いてくださいぃ」


 春野セカイはずいぶん、わかりやすい性格をしていた。

 素直と言えば、素直なのだろう。

 クリエイター志望らしく、自分の創作物に関心を持ってもらえるだけで嬉しいらしい。

 からかうのは辞めて、私たちは一人ずつ、彼女の曲を聴くことにした。


「……なるほど」


「……へぇー!」


 ふみとエリカの反応は悪くないのかもしれない。

 目を閉じて、音楽を楽しんでいるようにも思える。


 だけど、私は違う。

 音楽には一家言あるのだ。

 素人の作った曲はたいていの場合、どこかズレていることが多いのだから。


「……これ、本当にあなたの曲?」


 イヤホンから聞こえてくるのは、素人の曲ではなかった。

 電子音ベースのボカロ曲ながら、時折現れる生音が心地よい。

 メロディラインは往年のアイドルソングに近いが、ラップパートもあったりして新しさもある。

 春野セカイが音大生なのは知っていたけど、趣味でやっているレベルじゃない。


「は、はい……実は私、ボカロPを目指している時期がありまして……」


「へー、いいじゃん! うち、ボカロ、詳しいよ! 初期のから知ってる!」


「え、えへへ! そうですかっ! わ、私も大好きなんです!」


 ふみは今度こそ、春野セカイに食いついた。

 今まで冷たかったのは、オタク同士、警戒していたのかもしれない。


「……でも、大学三年生の時にボカロPで一発あてようとしたのですが鳴かず飛ばずで。それでもう、今世の最後の思い出に、ゆめめさんに、いや、藤咲さんに自分の曲を聞いてもらえたら本望だなって思って」


 春野セカイがとつとつと、今回の経緯について話し始める。

 彼女はボカロ曲を高校生の頃から作り始めているらしい。

 音大生であることからも分かる通り、しっかりした音楽教育を受けている。

 そのため、素人ではできない曲作りになっているのだ。


「てかさ、ボカロPの活動名って何? うち、知ってるかも。たまにマイナーな人もチェックしてるもん」


「ひぇ、めちゃくちゃ底辺ですよ? ……そのぉ、Spring Worldって言うんですけど」


「あー、知らないなぁ……これかなぁ? 登録者103人」


「えー、少なくなーい? 100人ぐらい、一日で増えるよね?」


「ごめんなさい、ザコは死にましゅ……」


 春野セカイのボカロPチャンネルが明らかになる。

 私はその業界には詳しくないが、ふみの反応からして無名に近いのだろう。

 それと、エリカよ、あんたみたいなプロモデルのSNSと一緒にするな。


「聞いてみよっかな。……うーん、なんか、さっきの曲の方がいい気がする」


「あー、わかるー。こっちの曲、好きじゃないかもー、うるさいっていうか意味不明っていうかー」


「あ、あわわわ、オーバーキル……」


 ふみとエリカが春野セカイの曲を聞いて、評価を下す。

 心理的ダメージで胸を抑える春野セカイ。

 二人とももう少しオブラートに包んで言葉を伝えるべきだとは思うが。

 

 ここで私は少しだけひっかかる。

 ゆうなさんに聞かせた曲はなぜ上手くできていたのだろうか。


「あ、先ほどの曲はそのぉ、ゆめめさんをイメージした曲でして、合法的ASMRのススメって言うんですけどぉ、ゆめめさんの持つ可愛らしさ、ASMRの呼吸感、それにリスナーを包む静かなパワーを表現したくてですねぇ、えへへ」


 すごい早口で思いを伝えてくる春野。

 なるほど、ゆめめ様をイメージしたからこそ、いい曲に仕上がったらしい。

 確かに、ASMR的要素が散りばめられた楽曲だ。

 途中で急に静かになって、生音が入るのはそういう理由からだったのか。


 自分の愛するもののために作った楽曲だからこそ、光るものがあったのかもしれない。

 

 ここで私の脳裏にとあるアイデアが浮かぶ。

 口に出すべきか逡巡する私。

 だけど、たぶんこれしかない。


「春野さん、あなた、ゆめめ様に楽曲を作ってくれない?」


「ど、どういうことですか!?」


 私は春野セカイの手を握ってしまっていた。

 



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