41.春野セカイの驚愕:教育実習に来てみたら、私の救世主様がいらっしゃっただなんて
「ああ……もう無理」
私の名前は春野セカイ。
教育実習をしている大学四年生だ。
教室に入るたび、寿命が縮んでいる気がする。
自慢じゃないが、私は口下手・コミュ障・陰キャ・ボッチメガネ女である。
いや、言いすぎ……てもいない。
実際、私は実習先の高校で完全にコミュ障を連発していた。
緊張のあまり、挨拶一つまともにできなかった。
そもそも、である。
高校時代の私は教室の隅っこで、ひたすら音楽を聴いている系の女子だった。
基本的に自分の世界で完結する音楽鑑賞が大好きで、音楽の世界の外に出たくない生き物だったのだ。
だから、音大を選んだというのもある。
そんな私がなぜ教師を目指したのか?
リアル妹からの言葉が私を叩きのめしたからだ。
「お姉ちゃん、就活失敗したら無職だよ? ちゃんと将来のこと考えているの?」
「しゅ、就活⋯⋯」
「パパたちが死んだら、お姉ちゃんも飢え死にすることになるけど、大丈夫そ?」
「う、飢え死に⋯⋯」
気づいた時には現実が迫っていた。
それは社会に出ること。
私はバイトさえしたことがなかった。
家が太いのに甘んじていたのもあるが、バイトに出る勇気さえなかったのだ。
やだよ!
社会に出たくないよ!
無理だよ、私が働くなんて!
大学三年生の夏、私は賭けに出た。
一年間、思いっきり創作活動を頑張ってみようという賭けに。
私は高校生の頃からずっとボカロ曲を作っていた。
将来の夢は有名ボカロP。
いや、しまいにはご本人が歌いだし、踊りだし、ハイヒールをはいて、ジブリの主題歌まで歌ってしまうほどのスーパースターに俺はなる……!
あと数年で、武道館、さいたまスーパーアリーナ、そして、ドーム公演、世界進出……!
みんなからチヤホヤされて、私の手形が浅草なんかに飾られたりして⋯⋯!
とにか くビッグになることを夢見ていたのだ。
いや、実際、自信はあった。
私が作り溜めていた珠玉のボカロ曲の投稿をするまでは。
「うぅうう、ダメだ、私、しゃいのぉがないんだぁ……ひぐ」
半年後、私は完全に打ちのめされていた。
私の立ち上げたYouTubeチャンネルの登録者は102人、直近の動画の再生回数は96。
人生大逆転を狙って、毎月アップし続けたが、どれもこれも再生回数は1000も行かなかった。
「ワイには才能が、才能がなかったンゴ……」
泣いた。
さめざめと枕を濡らした。
その後も色んなことにあがいたけど、一年を待たずして私の野望は潰えたのだ。
音楽は才能の世界だ。
チャンスをものにできなかった私に音楽を続ける資格はなかった。
『うまくいかなくても大丈夫。ぐっすり眠れば、明日、きっといいことがあります』
『今日はご飯が美味しいなとか、そんな日常の何でもない幸せな時間っていいですよね』
私を癒してくれたのは、とあるVtuberの配信だけ。
ASMRが得意な彼女は、優しいささやきボイスで私を慰めてくれた。
あれがなかったら病んでたと思う。
思い余って、彼女のための曲「合法的なASMRノススメ」を書いたぐらいである。
彼女の声やASMR音をリミックスした珠玉の曲だが、もちろん、非公開のままだ。
私だって、最後の一線を越えないぐらいの良識はあるつもりだ。
そして、自暴自棄な気持ちで教育実習に参加することになった。
教師なんてなるつもりもなかったが、正直、甘く見ていた。
だって、相手は6歳も下の高校生たちだ。
22歳のお姉さんからしたら、子供同然。
あんたたちお子ちゃまとは、人生経験が違いますわよ!
もしかしたら、お姉さんの色香に惑わされる生徒もいたりして?
えぇー、そういうの困っちゃうなぁー。
教育実習生はモテるっていうけどさぁー。
お姉さん、年下には興味ないんだよなぁー?
背筋を伸ばし、ふふんと鼻を鳴らしながら、教室に入った瞬間、背筋が凍る。
その日、私は思い出した。ヤツらに支配されていた恐怖を。
そこにいたのは、高校生だった。
まごうことなき、ぴちぴちの高校生だった。
高校時代、底辺を彷徨う地味子だった私にとって、キラキラな同級生ほど苦手なものはなかったのだ。
特に恐ろしいのは、タイプの違うJKがそろい踏みだったことだ。
教室の中央で異彩を放つ、モデルみたいな体型の女。
身長も高く、声も大きく、いつも笑顔の陽キャ。近づくだけでいい香りがする。
何もされていないのに、わかる。この雌には逆らえない。怖い。
お次は、いかにも成績優秀でクラスのまとめ役みたいな女。
和風美人な顔立ちで、物腰は丁寧。
頭脳明晰で歌も抜群にうまい。
だが、時折、後ろから刺されそうな視線をこちらに飛ばしてくる。怖い。
そして、オタク女子さえも私の味方ではなかった。
クラスの隅には青い髪の毛をしたJKがいた、いかにもサブカルオタク女子である。
彼女なら私に助け船を出してくれるのではないか。そう思った。
意外や意外、上記の肉食獣と仲良さげに会話をしているではないか。
くそ、騙された!
オタクのくせにギャルと仲良さげにしゃべるなよと内心、呪ってさえいた。
唯一、癒しの存在が藤咲さんと呼ばれる女子だった。
学生時代の私よりはずっと華やかだけど、それでもコッチ側だってすぐにわかった。
背も小さくて、声も小さくて、すごくかわいい。
これからはこの子だけを見て、教育実習を乗り越えようと決意した。
しかし、音楽のクラスでの教育実習の時のことだ。
おかしなことが起きた。
藤咲さんの発声練習をするために、ピアノの前に座った私は鍵盤を思いっきり叩いてしまう。
「よし」
聞こえたのだ。
あの救世主Vtuberの言葉が。
そのVtuberはASMR配信をする前に、気合を入れるためなのか、よく「よし」と言っていた。
小さく、つぶやくだけである。
時間にしてコンマ数秒。
だけど、私はそれを何度も何度も聞いていた。
こんなに才能がある人だって、緊張するんだって自分に言い聞かせるために。
いや、ただただかわいかったというのもある。大いにある。
「……あれ?」
私は思わず藤咲さんの顔を見る。
当然、あちらは私の顔を不思議そうに見つめてくる。
いけない、いけない、私の心のオアシスである藤咲さんに何を重ねてるんだろう。
私はその日の出来事を、偶然と片付けることにした。
藤咲さんの声はそのVtuberの声に似てる気がしたけど、彼女はどう考えても成人しているはず。
それも、こんな間近にいるはずがない。
私みたいなクソザコなめくじ教育実習生の前に現れるわけがない。
そんな風に胸の奥に蓋をしていたのが1週間前のこと。
しかし、私は、再び、藤咲さんのソレに遭遇することになる。
心優しい彼女は私の荷物運びの手伝いを買って出てくれたのだ。
いや、そこまではいい。非常にありがたい。
しかし、私はその後に目撃したのだ。
藤咲さんが自分の太ももを鼻歌まじりにタッピングしている様子を。
鼻歌も、そして、そのタッピングのリズム感も、そのVtuberのものだった。
それは、あの人の、それだった。
私の人生を救ってくれた、あの声、そのリズム、その仕草。
……そんな、はず、ない。だけど、全ての符号が合致したのだ。
藤咲さんは、私の暗黒時代を支えてくれた光の存在、悠木ゆめめ、その人だったのだ。
私の救世主がここにいたなんて……!
ごくりを唾をのむ。
わなわなと腕が震える。
教育実習がおわるまで、あと数日。
だから、私は決めた。
何かをしなきゃいけないって。
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