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姫君の歌声は変態を濡らす!?


「…ありがとう…ございます…見知らぬ…旅の…お方…」

か細くも凛とした声が、白雪姫の唇から紡がれた瞬間、桃色助平太は感動のあまり、盛大に鼻血を噴き出しながらその場に崩れ落ちそうになった。

「おおおおおっ!こ、この声!この声こそ、拙者が待ち望んでいた『天上の音楽』!その透き通るような響き、そして、微かに残る掠れ具合!まるで、初めて夜を知った乙女の、恥じらいと期待に震える吐息のよう!この助平太、その美声に…その美声に…全身の血が沸騰しそうでござる!」

「このド変態が!姫様がやっと声を出せるようになったってのに、またそれか!」辰五郎の拳が助平太の側頭部を捉えるが、もはや助平太の耳には届いていない。彼は、生まれて初めて聞く白雪姫の声の「お色気成分」を分析し、脳内の「美女データベース」に詳細な記録を刻み込むのに必死であった。

白雪姫は、助平太の奇行に僅かに眉をひそめながらも、傍らのカゲリと辰五郎、そして助平太の頭の上で威張っているプルルンに、改めて深々と頭を下げた。

「皆様のおかげで…こうして、再び声を…そして、僅かながら力を取り戻すことができました。このご恩、生涯忘れませぬ」

その言葉には、万感の思いが込められていた。

「姫様!お声が…!」

控えていた侍女のおトキが、涙ながらに姫に駆け寄る。城の中庭からは、姫の声が聞こえたのか、他の侍女や家臣たちの喜びの声も聞こえてくる。

しかし、その喜びも束の間、城全体が禍々しい妖気に再び包まれ、地響きと共に黒い影が広がり始めた!

「うふふ…面白い趣向ではないか。まさか、この儂の呪いを一時的にでも退けるとはな。だが、それもここまでだ。姫の魂、そしてその『鍵』、今度こそ完全に頂戴する!」

現れたのは、先程逃げ帰ったはずの妖術師・黒蓮であった。その姿は、以前よりもさらに異形と化し、背中からは禍々しい数本の触手が蠢き、その目には純粋な破壊衝動が宿っている。どうやら、玉藻の前から最後の力を授かったか、あるいは自らの命を削って妖力を増幅させたらしい。

「黒蓮!まだ懲りぬか!」辰五郎が鳶口を構える。

「姫様は俺たちが守る!」

「おお!黒蓮殿!そのお姿、さらに『倒錯的』な美しさを増しておりますな!その触手のうねり、そしてその絶望に染まった瞳!まるで、愛欲地獄に堕ちた菩薩のよう!この助平太、その『究極の闇エロス』に、またもや筆が走りそうでござるぞ!」

助平太は、黒蓮の異形化した姿にすら新たな「美」を見出し、スケッチブックを取り出そうとする。

「黙れ変態!今度こそ、お前たちの魂ごと、我が妖術の贄にしてくれるわ!」

黒蓮が触手を振り回し、強力な妖気の塊を放ってきた!

その時、白雪姫が、おトキの支えを借りてすっくと立ち上がった。その瞳には、先程までの弱々しさはなく、凛とした決意の光が宿っている。

「…もう、誰にも好きにはさせませぬ。この鈴森の民を、そして、私を助けてくださった方々を、私が守ります!」

白雪姫が、か細くも澄み切った声でそう宣言すると、彼女の全身から、柔らかな黄金色の光が溢れ出した。そして、その美しい唇から、まるで天上の音楽のような、清らかで力強い歌声が流れ始めた!

それは、魂を浄化し、邪気を払うという「破魔の歌」。その歌声は、城内に響き渡り、黒蓮の放つ禍々しい妖気を中和していく。味方の体には活力がみなぎり、傷は癒え、心には勇気が灯る。

「おおおおおっ!この歌声!この神々しさ!そして、歌う姫君の、そのお胸の震え!その喉の動き!その開かれたお口の奥に見える、桃色の舌!この助平太、今、猛烈に…猛烈に…『合唱』したい気分でござる!」

助平太は、感動のあまり涙と鼻血を流しながら、白雪姫の歌に合わせて奇妙なハミングを始めた。

「な、なんだこの歌は…!?儂の妖力が…!」

黒蓮は、白雪姫の歌声によって自身の力が削がれていくのを感じ、焦りの色を浮かべる。

「今だ!一気にかたをつけるぞ!」

辰五郎の号令一下、助平太一行の総攻撃が始まった!

辰五郎の燃えるような火消し魂を込めた鳶口の一撃が、黒蓮の触手を薙ぎ払う!

カゲリの疾風の如きクナイが、黒蓮の懐に飛び込み、その動きを封じる!

プルルンは、白雪姫の歌声で弱った黒蓮の精神に、さらに毒舌による追い打ちをかける!

「この三流妖術師!お前の呪いなんざ、このド変態の変態性に比べりゃ屁でもねえんだゾ!」

そして助平太は…

「黒蓮殿!その苦悶に歪むお顔!実に、実に美しい!しかし、その美しさを永遠のものとするには、もう少し…そう、涙の雫の角度が…!」

などと叫びながら、黒蓮の顔面に墨を塗りたくり、その「芸術的価値」を高めようとしていた。

白雪姫の破魔の歌声が最高潮に達した時、仲間たちの渾身の一撃が、ついに黒蓮を捉えた!

「ぐおおおおおっ!こ、こんな…こんなところで…玉藻の…前様…ばんざ…い……」

黒蓮は、断末魔の叫びと共に、その異形の体を霧散させ、禍々しい妖気と共に消え失せた。

黒蓮が消滅すると同時に、鈴森城と城下町を覆っていた不気味な妖気は嘘のように晴れ渡り、空には明るい陽の光が差し込んできた。呪いから解放された領民たちの喜びの声が、城まで届いてくる。

「…終わったのですね」

白雪姫は、安堵の表情を浮かべ、その場に座り込んだ。彼女の歌声も途絶え、体はまだ本調子ではないようだ。

「姫様!お見事でしたぞ!その歌声、そしてそのお姿!まさに、この世のものとは思えぬ美しさ!この助平太、生涯忘れることはないでしょう!」

助平太は、白雪姫の前に跪き、その手を(またもやいやらしい手つきで)握った。

数日後、鈴森の藩では、藩の解放と白雪姫の快気を祝う盛大な宴が開かれた。助平太は、白雪姫に「その美しきおみ足で、拙者の顔を踏んでくだされ!」と迫っては辰五郎に投げ飛ばされ、カゲリに「貴様は少しは反省というものを知らんのか」と本気で呆れられ、プルルンには「このド変態、祝いの席でまで問題起こすなだゾ!」と頭の上で暴れられるという、相変わらずの醜態を晒していた。

宴もたけなわとなった頃、白雪姫は助平太たちを静かな部屋へと招いた。

「皆様には、言葉では言い尽くせぬほど感謝しております。この鈴森の藩、そして私の命の恩人です」

白雪姫は、改めて深々と頭を下げた。そして、懐から例の白木の箱を取り出し、助平太に差し出した。箱の中には、三日月形の鍵の破片が静かに輝いている。

「これは、我が家に代々伝わる『月の守り石』。言い伝えでは、全部で七つある『星の欠片』を集めし時、大いなる災いが訪れるとも、あるいは大いなる福がもたらされるとも…そして、次の欠片のありかを示唆する歌が残されております」

白雪姫は、美しい声で古歌を歌い始めた。その歌は、異国の言葉や、難解な比喩が多用されており、すぐには意味を理解できない。

「…この歌、どうやら蘭学の知識がなければ解読は難しいようです。長崎に、お龍という名の、優れた女流蘭学者がいると聞いております。その方なら、あるいは…」

「長崎!そして蘭学者の美女!おお!それはまた、新たな『美の地平』が広がる予感!この助平太、そのお龍殿の『知的なお色気』にも、大いに期待いたしますぞ!」

「お前は本当に学習しないな…」

こうして、三つ目の鍵の破片を手に入れ、新たな目的地への手がかりを得た助平太一行。白雪姫と鈴森の藩の人々に見送られ、彼らは次なる冒険の地、長崎を目指して旅立つことになった。

その頃、江戸城の奥深くでは、玉藻の前が、黒蓮の敗北と、助平太一行がさらに鍵の破片を手に入れたという報告に、扇の奥で静かに怒りを燃やしていた。

「…桃色助平太…そして、天逆毎の鍵…。面白い。ならば、次なる一手は、より確実なものを用意せねばなるまい。あの『二人』を差し向ける時が来たようじゃの…」

玉藻の前の呟きは、不吉な予感を孕み、新たな波乱を予感させた。

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