37 学園祭当日 1日目 6
「今日の2時から、2階の音楽室で、僕たちと先輩がライヴを行います! 時間があればぜひ来てくれると嬉しいです!」
ショウは謎の大声で宣伝してくれる。私は声質的な問題であまり声が通らないので、その点ではショウは頼りになる。
「お前のバンド名のリヴァージュってなんなんだ?」
偶然通りかかった山村くんが、ショウに問い詰めていた。提案した私自身、(言葉をひらめいた時点では)RIVAGEという単語はあると知らなかったので、無理もない反応だろう。
「フランス語で岸って意味だよ」
「あーごめん、意味じゃなくて、なんでリヴァージュって名前にしたのかってこと」
リヴァージュ(Rivage)は、フランス語で岸(英語ではReef)を意味する。これは事実なのだが、山村くんが聞きたかったことは名前の”意味”ではなく”由来”だったようだ(なお、英単語にも発音は違うが、rivage(RIV-ijもしくはRAHY-vijのような発音らしい)という言葉はある、ということを後から知った)。
バンド名は、私が適当に言い出したものが語呂が良くて(そして、何となくかっこよくて&代案も出ず)万場一致で採用された、という経緯がある。
「なっち、詳しく話して」
ショウに頼まれた私は詳細を話した。
「もともとはmirageをもじってつけたんだよね。蜃気楼とか逃げ水?とか儚い夢とかを意味する言葉のね。語呂が変わりすぎない程度に子音をいじったりして、調べてみたら実在する単語だったから、これ結構いいかなってなったの」
山村くんは「なるほど」とうなずき、じゃあね、と言って去っていった。
10分ほど宣伝を行った後、僕たちは水筒をもってあまり人がいないテラスの席に座った。
「ライヴ、自信ある?」
私は特に話題もなく、当たり障りのない話をした。
「まあちょうど2週間前にやったばかりだし、何とかなるんじゃないかなって思ってるよ」
私は頷いたが、その後何も話さなかった。
空は晴れているが、雲がぷかぷかと浮かんでいる。ショウは青空に漂うひとつの雲を指さしてこう言った。
「あの雲、なんか北海道っぽくない?」
そう言いながらショウが指さした雲は、三角形の形をしているとはいえさすがに北海道とは言えないものだった。
「ごめん、さすがに見えないかな」
ショウは凹んでいるようだった。第一印象がそうだったのだが、ショウは誠実そう(実際そうなんだけど)だ。今思ってみると、どことなく頼りないところがある。正直、私は好きになっていた。




