02
テトが王都に着いた時、男と約束した時間まではもう少しあった。精神が少し参っている今、華やかな王都の街並みに立つことは苦痛だった彼は裏通りに入る。華やかな大通りとは違い荒廃した裏通りは、整備も行き届いてなければ人も少なく、所々ゴミなども落ちていた。あまり治安は良くないらしく、バイルがテトを王都に連れてきてくれた時は近づかせないようにしていたことをテトは思い出す。それでも今は賑やかな王都の中でこの静かな裏通りだけが彼の心に寄り添ってくれる気がした。
「おにーちゃん、何してるの?」
突然後ろから袖を引っ張られ、テトは驚いて振り返る。そこにいたのは赤橙色の瞳が印象的なテトよりも少し幼い少女だった。首には瞳と同じ色の六角柱の石の変わった首飾りがかかっている。薄茶色の髪は横で一つの三つ編みになっていて、少女はどこか不思議な雰囲気をまとっていた。
「えぇっと……君は?」
「君じゃないもん。ハティルだもん」
君、と呼ぶと彼女――ハティルは頬を膨らませ不満気な顔をした。可愛らしい顔立ちをしているが、どうやら我は少し強そうだなとテトは印象を受ける。
ふと、テトは耳鳴りがした。最近やけに耳鳴りが多い気がする、精神的に疲れているからだろうか。
「ハティル、はじめまして。僕はテト、テト・ネオペルトっていうんだ」
「ハティル・ゼグリードだよ! よろしくね、テト兄!」
ハティルはテトの手を取り、無邪気そうににこりと笑った。それから彼女は少し首を傾げて彼を見上げる。
「ねね、その剣どうしたの?」
「これは僕のお守りみたいなものだよ」
「そう……そうなの……? あのねあのね、でもテト兄捕まっちゃうよ?」
「捕まる……って、憲兵に?」
「うん!」
元気よく頷くハティルに、テトは首を傾げた。今のところ何も悪いことはしていないはずだ。突然声をかけられただけでも驚いているというのに、一体この少女は何を言っているのだろうか。
「君は」
「ハティルだもん」
「ハティルはどうして僕が捕まるって言うの?」
「見えたの!」
見えた、と嬉しそうに彼女は言うがテトにはその意味が全く分からない。大体捕まっている姿が見えたのならば今頃テトはとっくに檻の中だ。
その時、十五時を告げる鐘が街に鳴り響いた、男との約束の時間である。
「ごめんハティル、僕もう行かなくちゃ」
「うん! またね、テト兄!」
またね、と言われてもこの広い王都で約束も無しに再会する日は来るのだろうか。ハティルが着ていた服は決して薄汚れたものではなく、裏通りに住んでいる貧困層の人間ではなさそうだった。だからまたここを訪ねても彼女には会えないだろう。
約束の場所まで急ごうと、表通りを走っていたテトの腕を誰かが掴んだ。振り返るとそこには憲兵が恐ろしい表情をして立っている。相変わらず光を返さない、不気味な目だ。
「憲兵隊第二部隊『ハート』第一小隊だ! 王国法第六十七条にのっとり貴様を城に連行する!」
憲兵はそう声を上げ、テトの腹を殴った。あまりの痛みに彼の意識は薄れていく。見えた、というのはもしかして未来の出来事ではないか。
それはテトにとってあまりにも遅すぎる気づきだった。




