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Light or Thorn  作者: Hoeplow
第一話
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7/24

06

 辿り着いた集落は全ての建物が燃えている。パンテラから下りたテトは急いで真ん中の大きな建物を開けた。


「な、何これ……っ⁉」


 ほぼ焼け落ちた広い家の中、床に幾人もの人々が血を流し倒れている。これがただの火事ではないということにテトが気がつくまでさほど時間はかからなかった。何者かによって斬られたであろう人々はとっくにこと切れている。


「お父さん!」

 どうかここにいないでくれ、と祈りながらもテトは父を呼ぶ。煙が充満する室内は視界が悪い。


「…………テト、か」


 低く唸るような声、テトとダグは顔を見合わせた。煙を吸い過ぎると人は死に至るということは、基礎学校で習っている。

 基礎学校とは子どもたちが社会的に生きる力をつける為に各自治体に設置されているものだ。これはエルライードがまだハタナとナタラに分かれていた時から行われている古い政策である。サテルが国を乗っ取ってからも変わらず行われており、子どもたちは六歳から教育が始まるのだ。エルライードで用いられている公用語のメリメラ文字の読み書きや、簡単な計算方法、それから国民のほとんどが使える古代メリメラ魔法の使い方を主に教える場であった。六歳から学び始めた子どもたちは、国が定める基準まで習得し卒業試験に合格すれば卒業となる。飛びぬけて優秀な者は二年程度で卒業することもあるが、そうでなくとも基本的には遅くとも十二歳程度で卒業できた。王都のような都会では学校の為の建物が存在し教師という職業もあるが、ルクサイトのような田舎の村や町では子どもの数も少なければ最悪いない場合もある為主に村長や有力者が家に招き教育を施している。テトはダグの祖父アシルから基礎教育を受けていた。かつて軍人だったというアシルの授業は国が定めた内容だけでなく護身術や応急処置の方法、それから人体にとって何が危険かを教えてくれたのだ。

 ダグが水魔法を唱え、二人は自身のハンカチを濡らしてから口に当て建物の奥へ向かう。


「お父さん! どこにいるの!」

「う……う、うぅ……テト……」

「こっちだテト! 早く外へ運ぼう!」


 ダグが血まみれのバイルの姿を確認し叫ぶ。二人はバイルの両肩を担ぎ、家の外へ引きずり出した。家から少し離れ、草原の上に彼の身体を横たえる。そのままダグはパンテラに跨り誰かバイルを救える人物を探す為に村へ戻った。

 ぜーぜーと息をする彼の右手には一本の剣が握られていた。彼はテトの左手を弱々しく掴むと、その剣を握らせる。


「テト、よく聞け、今から……話す、ことは……今、すぐ、受け止めるのは、難しい話だ……けど、どうか、わかってくれ」

「何、どういうこと、誰にやられたのお父さん」

「最初に……テト、お前は……私の、息子、ではない」

「何を……っ!」


 突然突き付けられた事実に叫ぼうとしたテトをバイルは手で制止する。自分に残された時間が少ないことは、もうとっくに分かっていた。この事実をテトに告げなければという想いだけでギリギリ保っていた命だ。


「お前の父の名前はケルス・ネオペルト……伝説の光使い、ソル・ネオペルトの子孫だ……そして、テト……お前は、光使いだ……それは、お前の、首にかかるその石が、光玉が、証明している」

「ぼ、僕、が……光、使い……⁉待ってよお父さん、僕全然理解が」

「我々は、魔王サテルを、倒したかった……お前を、その象徴として、担ごうと……けれど、私はそれが、耐えられなかった……だか、ら、結論を、引き延ばした……その、罰だ……憲兵が……気づいていた……我々を、次々と、斬り、殺して……火を」

「お父さん、しっかりしてよ! ダグが誰か呼んできてくれるから!」


 テトはそう言って励ますが、バイルはもう間に合わないことを悟っている。国民のほとんどが魔法を使えるこの国でも、回復魔法を使えるのは魔女だけだ。そして魔女の中でも回復魔法を使える人間はかなり限られるという。そんな人物は村にはいない、王都まで行っても見つかるか分からない。


「この剣は……元々、お前、の……ものだ……これからお前の未来が、どうなるのか……私には分からない……けれど」


 バイルはひときわ大きな咳をした。ぜーぜー鳴る息は今にも絶えようとしている。父が助からないことを悟ったテトの目から、ついに涙が零れた。


「頼む、テト……チェリル様を、助けてくれ……あの方は、まだ、城に」

「チェリル……? それは誰なのさ……! ねぇ! お父さん!」


 胸の苦しさにバイルは目を閉じる。血に濡れた大広間が見えた。敬仰していた国王夫妻の転がる首、部下たちの亡骸。しかしそこには国王夫妻の一人娘であるチェリルの姿がなかった。

 血を流し痛む頭を押さえながら城を這いずり、辿り着いた彼女の自室。部屋の中央、青い光に包まれたベッドに彼女は眠っていた、眠っているように見えた。外傷も何も無く、穏やかな顔の彼女にバイルは近づこうとしたがベッドを包む光に弾かれ触れることはできなかったのだ。光に守られた彼女はよく見れば息をしていなかった、けれど死んでいるとも見えない。それはまるで魔法で彼女の時を止めたようだった。生活の為の一般的な魔法の知識しかないバイルには、それが一体何なのか分からない。途方に暮れ、自分の無力さに唇を噛み締め彼は城から出る為彼女の自室を後にした。魔女を探さなければならない、しかしバイルが唯一知っている魔女はつい先日病気で亡くなったと聞いている。

 必ず魔王を倒さなければならない、そんな情念の炎を燃やしながら通り抜ける為に再度訪れた大広間。彼は茫然と座り込んでいるテトの姿を見つけた。自分の名前も、自身が光使いであることも、親のことも、彼が守っていたチェリルのことも、何もかも全ての記憶を失っていた。それでも彼は、間違いなく自分にとって


「お前は、私の……我々の、希望の、光だ」


 最期の気力を振り絞りバイルは目を開けた。泣きじゃくる息子の姿を捉え、優しく笑う。


「きっと、他にも光使いがいる」

「分からない、ねぇ、何も分からないよお父さん」

「だから、頼む、魔王を……我々の、愛する陛下たちの、敵を討ってくれ」


 何も教えてやれない自分が不甲斐ない。自分のこの十二年は意味があったのだろうか。ギリギリで保っていた心を抱え、何とか集めた部下たちとも最後は仲違いをして。

 テトがバイルの手を持ち上げ、自分の頬を摺り寄せた。流れる涙がバイルの手を濡らしていく。


「あぁ……お前と、会えたから……良かったのか……」


 どうか息子の未来が険しいものではありませんように、と彼は心の底から願った。


「良い仲間と、出会いなさい、テト」


 そう言ったバイルの腕の重さが増した。彼の青いはずの瞳が黒々としている。

 その意味をテトはもう理解していた。

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