05
乗合ティミンに乗るテトにもその煙は見えていた。ルクサイトに近づくにつれて火事の臭いも強くなっていく。どうか村の火事じゃありませんように、とテトは願った。
そうして村が見えた時、テトは火事が村で起こったものではないことが分かる。それは村の更に先、バイルがよく訪ねている彼の友人の家がある集落の方向だった。不謹慎だとは思いながらも自分の住む村ではなくて良かった、と彼は胸を撫で下ろす。
村の入口の停留所で降りるとテトは一目散に家へ向けて走り出した。
「お父さん! 友だちの家が」
玄関の扉を開けながら彼は言ったが、家の中のどこにもバイルの姿はない。これだけ火事の臭いがしているのだ、帰ってくるまでの間にも村人は皆遠くの煙を心配そうに見ていたし、父はとっくに友人の家に向かったのかもしれない。
テトは荷物を置き再び外に出る。ちょうど隣の家の息子であるダグも家の外に出ていた。ダグはテトと同じ歳で、この村では貴重な友人である。
「ダグ」
「テト、王都は楽しかったか?」
「うん……それより、お父さんを見てない? 多分あっちの集落に行ったんだと思うんだけど……」
「煙が見えてすぐに俺も外に出たけど……」
ダグの話だと、彼もバイルが向こうの集落に友人を持つことを知っていたので煙が見えてすぐにテトたちの家の扉を叩いたという。返事が無い為、仕方なく扉を開けたが家の中に既にバイルの姿は無かったらしい。
「……お父さん、向こうの集落にいるのかな……僕行ってくるよ」
「ちょっと待てってテト、それならうちのパンテラに乗ろうぜ!」
走って集落へ向かおうとしたテトをダグは引き留める。ダグの家はこの村で一番大きい家だった。詳しくはテトも理解していないが、彼の祖父が有名な人らしい。そのおかげか彼の家には移動用のパンテラが飼われていた。気性が荒く人に慣れさせるまでにも時間を要するうえ、肉食の為餌の確保も金がかかり、更には繁殖も難しい為あまり普及はしていないパンテラを飼えるだけの資産があるのだろう。ティミンの十倍近くの速さで走るパンテラならば、徒歩なら一時間かかるあちらの集落まで五分足らずで行ける。
ダグは庭にある小屋からパンテラを連れてきた。黒と白と茶色が混じった長い毛でモフモフとしている四足歩行の動物、ダグに懐いているのか彼の顔を舐めながら嬉しそうに尻尾を振っている。その背に載せられた大きな鞍はテトたち二人が余裕で乗れる大きさだ。
ダグはその背に乗り、テトに手を差し伸べた。テトが乗り込んだのを確認するとダグはパンテラの頭を優しく叩く。するとパンテラはぐんぐんとスピードを上げ走り出した。テトはパンテラに乗るのは初めてで、その景色の流れる速さに息を呑む。夕暮れの空と草原の境目がどんどんと曖昧になっていき、足元から闇が迫っているようだった。




