↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Light or Thorn  作者: Hoeplow
第一話
PR
3/24

02

 バイルは村の入口にある乗合ティミンの停留所までテトと向かい、彼が乗り込むのを確認すると手を振って見送る。乗合ティミンが遠く見えなくなると踵を返し、村の中へ入っていった。住民の少ない村は、もちろん家の数も少ない。川のせせらぎと、ミルクを取る為に飼われているルンデの低い鳴き声だけが静かな村にのどかに響いていた。そんな村の中、自分の家の前も足早に通り過ぎたバイルは更にその先へと進んでいく。ルクサイトに所属する最後の家も通り過ぎる彼の目は真っ直ぐに村の先、遠くに見える集落を見つめていた。

 一時間近く歩いて辿り着いた集落は、こじんまりとした家が少しと、真ん中に比較的大きな家が一軒建っている。ここは地図に乗っていないし、集落の名前も無い。

 バイルは真ん中の家の扉をコン、ココン、コンコン、と少し変わったリズムでノックする。扉がゆっくりと開き、開けた人物はバイルの顔を確認すると彼を家に迎えた。たくさんの椅子と机が並べられている家の中、一番奥の壁には鍔に黄色に輝く石が嵌められた剣が飾られている。外から見れば普通の家だが、その実台所も寝室も居間も無い、人の生活が行える家ではないのだ。多くの男たちが集まり議論しているその様子は、どう見ても家ではなく集会所である。


「お待ちしてましたよ、ボルトフ兵長」

「もう私は近衛兵長ではない。ただのバイルだと何度言えば君は理解するのかね」


 バイル・ボルトフはテトと話していた時とは比べ物にならないほど冷たい声で言い捨てた。年寄りめいた口調も消えている。


「まぁまぁバイルさん。ソイツはアナタのことが憧れだったんですから大目に見てあげてくださいよ」

「大目に見て何年目だ。君たちがこの場所で集会をするようになってから……もう二年になるか」


 バイルを宥めるように言った男に彼は呆れたように言った。ここにいる男たちは皆、エルライード城で彼の部下だった者たちだ。近衛兵長バイル・ボルトフ、それからその部下の近衛兵や一般兵だった者たちはエルライードの惨劇から十年経った日にここでサテルを倒す為決起した。エルライードの惨劇を辛うじて生き残った兵士たちは国内で散り散りになっていたが、少しずつ同志を集め一年程前に三十人近くになった。しかしそれ以上の同志は見つかることはなかった。恐らくもう生き残りがいないのだろう、とバイルは予想していた。そもそもあの惨劇で生き残れたことこそ奇跡のようなものだ。

 魔王サテルは茨で人々を貫き次々と殺していった。バイルも床から自分目がけて伸びてくる茨を避けようとしたが、その勢いはどんな剣筋よりも速く彼は避けきれず茨で頭を強打し気を失ったのだ。それから目が覚めると既にサテルは城を後にしており、バイルの目の前には血の海が広がっていた。


「テト様はまだ連れてこられないのですか、バイルさん」


 男たちの中の一人が彼にそう聞いた。その瞬間他の人間もそうだそうだと言い始める。バイルはそんな彼らに対して静かに首を振った。


「これも何度も言っているが、テトをこのことに関わらせることは無い」


 彼は壁にかけられた剣を見つめ、そう告げる。そのことに他の人々から不満の声が漏れた。光使いであるテトを魔王サテル討伐の為の象徴として担ぎあげようというのが、バイル以外のここにいる全員の意見だった。千年前に魔王サテルが封印された際、その封印を行ったのが光使いだからだ。

 しかしテトは今や自身が光使いであるという記憶を失っている。血に染まった大広間で目覚めたバイルが彼を見つけた時点で、彼は既にそれまでの記憶を全て失っていた。自分の名前も、自身が光使いであることも、親のことも、彼が守っていたチェリルのことも、何もかも全てを失っていたのだ。

 バイルも最初は魔王討伐の為に彼を育てるつもりだった。しかしエルライード城での日々も忘れ、バイルと農業に勤しみ、隣の家の子どもであるダグと無邪気に遊び、日々を楽しそうに生きている彼をこんな血なまぐさい集まりに連れていくのは嫌だといつしか思うようになっていた。バイルはかつて彼に剣を教えていたが、今はもう剣の握り方すら知らない彼がどうやって戦えるというのか。


「バイルさん、何も彼に前面に立ってもらおうってわけじゃないんです。ただ我々の象徴として」

「ならん。テトはもう何も覚えていないのだから」

「そもそも何も覚えていないのも薄情すぎる! エルライード王家に仕えていたというのに、忠義心は無いというのか!」

「バイルさんも甘やかしすぎでは⁉ 彼ももうあと二年で成人でしょう⁉ 何故彼に戦う術を教えないのです!」

「そうだそうだ! そこに飾っている剣だって本当は彼の手に渡り魔王討伐の為に振られるべきなのに!」


 一度でも非難の声が上がってしまえばもう止められない。次から次にバイルを責め立てる言葉が投げつけられる。バイルとて彼らの気持ちが分からないわけではない。ただ、今はまだ早すぎるのだ。

 千年前に魔王を封印した光使いは四人だったと言われている。それは、この国で信じられている神の数と同じだった。光使いと神との関係性について確証は無い、それでもバイルはそこに何か繋がりがある気がしてならないのだ。度々王都の図書館へ行っては文献を探していたが、腕っぷしのみで生きてきた彼に読めるものは少なくついぞ今日まで情報を得ることはできなかった。

 ただ、今のままテト一人に光使いとしての役目を押し付ければ彼が死んでしまうのではないかという恐怖が、彼の胸の奥底で燻ぶっていたのだ。


「もう我々が直接話をしましょう」

「それが良い。バイルさんの家に行って話をする人間を決めよう」


 どんどんと熱を帯びていく彼らを止められるほどの威厳はもう、バイルには無かった。血に染まった大広間で敬仰していた国王夫妻の転がる首を見た時から、心はとっくに折れていたのだ。このままでは彼らはルクサイトのバイルの家に来てテトを連れていくのだろう。どうすれば良いのか、どう進めば良いのか、今のバイルには何も分からない。

 そんな彼の後ろで、外に通じる扉がゆっくりと開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。