04
「だから無理だってばぁ……」
クローバーに引きずられながら、なおもスペードは泣き言を漏らしていた。クローバーは聞き流しながらサテルの前まで歩いていく。大広間の一番奥、サテルは玉座に鎮座していた。クローバーに引きずられてきたスペードの姿に彼は喉を鳴らして笑う。流石のスペードもここまでくれば観念してサテルに向かって膝折礼をする。普段ならば地面に跪くが、ドレスを着ている今はできそうにもない。
「我の見立ては間違っていなかったようだな」
「えぇ、陛下は流石です」
「其方の腕には毎度助けられるな、クローバー」
嬉しそうにお互いを褒め合うサテルとクローバーに挟まれ、スペードは居たたまれない気持ちになる。自分だけ場違いな気がしてならない。サテルもクローバーも華がある。皆からも女神と称されるクローバーは勿論、サテルだって顔の上半分を仮面で隠してこそいるが、整った顔立ちであることは全く隠せていない。真っ黒で艶のある長い髪もスペードからすれば羨ましい限りだ。自分の中途半端な暗い茶髪ではなくいっそあれぐらい真っ黒なら自慢に思えたかもしれないな、と彼女は毛先を指先でいじった。
「おぉ、初めましてサテル様」
その時、ふと後ろから声が聞こえ彼女は振り返る。クローバーの背後からそっと顔を覗かせると、その先には茶髪の男が一人立っていた。彼は真っ直ぐにサテルを見つめている。その顔は憎悪に満ちていた。
「其方……何者だ?」
「クロフィルって村で村長やってるウレバール言いますねん、以後お見知りおきを……なぁ知ってるやろ、クロフィル。俺らから大切な子ら奪ってんから」
独特の訛りのある話し方の彼が自身の腰に下げる剣に手をかけるのをスペードは見た。その瞬間、彼女はサテルを庇う為の防御魔法を唱えようとしたのだ。しかし、何故か魔法は発動しなかった。代わりに彼女は自身の胸の辺りが焼けるように熱くなっていることに気がつく。何で、と呟こうとしたはずの声は発することができない。ゴポリ、と嫌な音が喉から鳴った。その喉をせり上がってきた何かを彼女は止めることも出来ず口から吐き出した、血だ。そこでやっと彼女は自身の腹をウレバールと名乗った男の剣で貫かれていることに気がついた。防御魔法を唱えようとしたはずだったのだ、それなのにいつの間にか身体が無意識にサテルを庇うように動いていた。
「何、で」
吐血する彼女にウレバールは怯えているのか、瞳が揺れ動いているように見えた。身体が貫かれていることに気がついてしまえば、激しい痛みから逃れることはできない。不死身の人形とはいえ、痛みは感じるし、あまりにも激しい痛みは意識を奪う。クローバーが自身の名前を叫ぶ声、それが彼女が気を失う直前の最後の記憶だった。




