03
「どういうことだダイヤっ!」
会場に着くなりスペードは声を上げた。彼女を見たダイヤがたった一言〝美しいな〟と呟いたからだ。彼女は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。まさかダイヤからそんなことを言われる日が来るなど想像だにしていなかった。彼は人形になる際サテルによって感情の記憶すら消されていたのだ。
「お前! 目が腐ったんじゃないか⁉ ああそうか私たちは実質死体だから腐ってるようなもんか!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいスペード……あとダイヤ、スペードの心を乱すのやめてください、せっかくさっき泣きそうだったのが落ち着いたばっかりなのに……」
「な、泣きそうとかなかったけど⁉」
スペードがクローバーへ勢いよく振り返った拍子に、彼女の首元の指輪が揺れた。嵌められた石が照明を反射しキラリと輝く。その光はまるで星の瞬きのようにダイヤの目に映った。
「……それ、どうした?」
その指輪はダイヤが見たことないもので、彼はスペードに聞く。彼女が不思議そうに首を傾げたのでダイヤは自身の首元をトントンと指で叩いた。その様子に合点がいき、スペードは左手で指輪を握り締めはにかんだ。
「クローバーに貰った……誕生日、プレゼント……で」
「誕生日なのか?」
「そうだ! 悪かったな覚えてないからって勝手にでっち上げて」
「いや……祝いが必要だな、と」
ダイヤは何か迷ってから腰に剣と共に下げている小袋から何か取り出した。そしてスペードの右手を手に取り、その手に何かを握らせる。突然彼に手を取られたスペードは気が動転しているのか目に涙を溜めていた。彼女は握らされた右手を震えながらも開く。そこには金色の輪が転がっていた。橙黄色の石、そして石の横に一つだけ小さな真珠のような物がついている。
「また指輪……」
「悪いな。これしかない」
「良いじゃないですか! 二つ一緒に首からさげれますよ!」
「し、仕方ないから受け取ってやるっ! その……ありがと、ダイヤ」
彼女は伏し目がちに微笑んで、それから一度ネックレスを自身の首から外す。そしてダイヤから受け取った指輪もクローバーから貰ったものと同じように鎖に通した。しかしそれにしても何故ダイヤはこんな物を持っているのか。彼は決して自分の為の装飾品を買うような男ではない。顔が良いのに、自分に無頓着がすぎる。
「何でお前がこんなもの持ってる……?」
「覚えていない」
「じゃあ生きてた時の……」
「お守りだ、俺の」
「そんな物っ」
「スペード、ダイヤもスペードのことが大切だから大事なモノをあげるんです。愛されてますね、ふふっ」
クローバーがニンマリと笑いながら俯くスペードを覗き込むと、彼女はクローバーを小突いて〝茶化すのはやめろ〟と鋭く囁いた。それから胸元に揺れる金と銀の指輪を左手で握り締める。大切だと思ってもらえるような人間ではないと思うが、それでもこうして気にかけてもらえると心が温まるのだ。
「……ありがと、二人とも」
「構わない、それより早くサテル様の所へ行け」
「いや、それはちょっとぉ……無理かもぉ……? クローバーならまだしも私なんかがそんな側にいたら流石に……サテル様を笑い者にしたいのか⁉」
「問題無い、お前は十分に美しい」
「だからぁ……! その言い方は反則……ッ!」
「はいはいスペード、往生際が悪いですよ。行きましょう。大丈夫ですから」
「ちょっ、引っ張るなクローバー! 無理だって、本当っ」
必死に抵抗するスペードにはお構い無しでクローバーはサテルの所へ引っ張っていく。AITHの中で一番体力が無いのはスペードだ。ついでにいうと腕力も無い。全てを魔法に頼り切りなせいである。順位こそクローバーのほうが下だが、力では圧倒的に負けるわけで。
「やめろっ! クローバーっ! 無理、本当、やだ、やだぁぁぁぁぁぁっっっっっ……!」
ダイヤはその様子一目見るとを耳を塞いで目を閉じ、黙りこんでしまった。ダイヤもスペードのことが大切だから大事なモノをあげるんです。愛されてますね。先ほどのクローバーの声がダイヤの脳裏に蘇る。
「……余計なお節介だ、クローバー」
彼はそう呟いてから、顔をしかめて二人の行った方を見た。そしてふと視線を戻した時、彼は視界の端に何者かを捉える。何が理由かは分からないが、無意識に一人の男を目で追っていた。三十代くらいだろう、茶髪の男が歩いている。身なりからして、この舞踏会に招かれた国民だ。招かれた、と言っても強制的に呼ばれているだけである。サテルからの招待を断れば、その人物に未来は無い。舞踏会を開くのも、力を誇示する為だ。その男は腰から剣を下げているので、王都の外から来たのだろう。王都で武装するのは王国法の違反になるが、彼が王都外から来たサテルの客ならば剣を持っていてもおかしくはない。魔物のいる道を辿ってくるならば、武器は必要だ。許可を得て帯刀しているのだろう。
「……しかしあの剣」
ひどく見覚えがあるな、とダイヤは自分の記憶を辿る。視線を落とした時、自身の剣が視界に入った。そうだ、彼の剣は自身の持つ物によく似ている。同じ鍛冶師が造った物かもしれない。もう一度男を見ようとダイヤが視線を上げると、彼は剣を構えサテルに向かって走り出していた。反逆者だ。今すぐ殺さなければならない、とダイヤが剣を抜いた瞬間。サテルを庇うように彼の前に立ったスペードが、その男の剣によって貫かれた。




