05
「それで、ハティルたちはそのお城に行くの?」
「え……ハティルも僕たちと来るの?」
「いや、知らねぇけど……ティミンにも乗れねぇから魔物のいる道を徒歩で行くことになるし、そもそも親もいるだろ、誘拐になって更に罪を重ねることになるぜ」
「そっか……そうだよ。ハティル、君の家はどこにあるのさ。そもそもどうしてここに……」
「知らない。ハティルは見えたことしてるだけだもん」
「知らないって……家は知ってるでしょ? だって、どこから来たの?」
テトの問いかけにハティルは不思議そうに首を傾げる。そもそも見えたこととは何なのか、昼間にテトが彼女と初めて会えた時も似たようなことを言っていた。
要領を得ない二人の会話にレックスは溜め息をつく。今頃テトが脱獄したことも、ハートが抜け出したことも、憲兵たちにバレているはずだ。ここでゆっくりできる時間は無い。
「ハティル、アンタの父親と母親は何処にいるんだ、まさかいねぇなんてことねぇだろ。そんだけ綺麗な服着てんだから」
「分かんない! チチオヤとハハオヤってなぁに?」
「父さんと母さんって意味だ、アンタ基礎学校に行ってねぇのか……?」
「ガッコ―? 行ってないと思うよ~~! ハティルは今日ここにいたの! それまではね~~、分かんない!」
「まさか、記憶がねぇのか……?」
えへへ、とハティルは能天気に笑っている。その時、窓の外から騒がしい声が聞こえてきた。レックスが窓の陰からチラリと外の様子を伺うと憲兵隊が走り回っているのが見えた。潮時だ、もう王都から離れなければならない。レックスは自分の荷物を手に取った。
「テト、行くぞ……王都から出れば追手は今ほど来ないはずだ。どうせ各地に配属されてる憲兵なんて数も多くもないしそこまで熱心に仕事をしてるわけじゃねぇから」
「あ、うん、でも……」
「連れていくわけねぇだろ」
控えめにハティルをチラリと見たテトにレックスは冷たく言い放つ。ハティルはそんな彼の腰に思い切り抱き着いた。
「……でも、連れていくしかないよ」
レックスにだけ聞こえた彼女の声は、ひどく大人びていて。彼はハティルの肩に手を置いた。打って変わってハティルはニッコリと子どもらしく笑っている。
「えへへ、あのねあのね、ハティルはついていくの! だって見えてるから! それに聞こえるの! そうしなきゃなの!」
「レックス、ハティルも連れて行こうよ」
「そうは言ったって……」
「ハティルは前にも僕に〝見える〟って言ったんだ。その時は僕が捕まることを見てた……多分だけど、ハティルは未来が〝見える〟んじゃないかと思うんだ……そのハティルがそうしなきゃって言うなら僕はそうすべきだと思う」
「ハティルもそう思うな~~! えへへ~~!」
レックスの背中にハティルはぐりぐりと頭を押し付ける。彼は大きな大きな溜め息をつき、鞄を肩にかけた。それからハティルを担ぎあげる。
「はわわわっ!」
「しっかり捕まってろよ?」
「わ~~たかいたか~~い! 見て見てテト兄! 高い!」
「良かったね、ハティル」
「ほら、行くぞ」
部隊を率いていたレックスにとって、憲兵たちがどう行動するか把握するのは容易いことだ。話すべきことはあまりにも多くある。その為にもまずは王都を出なければならない。テトが荷物を持ったのを確認するとレックスは扉に手をかけた。部屋を出る直前、彼はふと後ろを振り返る。窓の外にはサテルの城が見えていた。あの場所に未練は無い。ただ、もう戻れないのだということを彼は改めて確認したのだった。




