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Light or Thorn  作者: Hoeplow
第二話
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11/24

04

「テト兄、おかえりなさい! 出てこれて良かった~~!」

「は、ハティル……?」

 抜け道である下水道、ハートが途中小道に曲がって入っていくと、その先には梯子があった。梯子を上った先は窓も扉も無い小さな部屋だった。部屋の角にある本棚に並べられている本をハートが引っ張ると、本棚が横にスライドし隣の部屋への入口が現れた。その先には何故かテトが昼間に裏通りで出会ったハティルが笑顔で立っていたのだ。

「何者だ」

「ハティル! ハティル・ゼグリードだよ~~!」

警戒するハートにハティルはにっこりと笑って名乗る。しかしハートが聞きたいのはどう考えても彼女の名前ではないだろうことをテトは理解していた。

「なぁ、ハティルさん」

「ハティルサンじゃなくてハティルだもん」

 ハートは溜め息をつくと、これまで被っていたフードを脱いだ。ハティルのその姿を捉えた瞬間、彼はピタリと動きを止める。テトには彼が息を呑んだようにも見えた。ハティルはそんな彼に近づき、その袖を引っ張る。呆気に取られたまま彼は屈み、近づいてきたハティルの頬を確かめるように触れた。

「ハティ……?」

「だからハティルだってば!」

 ハティルは触れられている頬を膨らませる。その様子にハートはハッと我に返ったようだった。何をそんな驚くことがあるのか、テトには全く分からなかった。ハティルはハートの袖を再度引っ張っている。何事かと首を傾げる彼に、ハティルは不思議そうに聞いた。

「ねぇね、名前は?」

「ハートだ」

 ハートの答えにハティルは再び頬を膨らませた。納得がいっていない、という顔だ。

「嘘ついちゃダメだもん」

「……本当だ、AITH第二位『ハート』って君の通り名みたいなものでしょ」

 テトとハティルに詰められ、彼は顔をわずかに顰める。それからしばらく考える素振りを見せ、彼は着ていた黒く長いコートを床に脱ぎ捨て言った。

「レックス、レックス・ライフだ」

「レックス!」

 レックス、という名前を聞いたハティルはその名前を繰り返し嬉しそうに彼の腰に抱き着いた。彼は少し驚いた顔をしてから、ハティルの頭にそっと手を置く。ハティルはその手に自分の頭をグリグリと押し付けていた。レックスはそんな彼女の子どもらしい仕草に少し苦笑いを浮かべながらテトをジッと見つめてくる。

「アンタは?」

「え?」

「アンタの名前。聞いてねぇよ、光使い」

「あ!」

 本当だ、とテトは口に手を当てた。レックスとは出会った時からずっと慌ただしく、結局一度も名乗っていない。それにも関わらず彼に本名を名乗るように強要した自分をテトは恥じ入る。

「僕はテト、テト・ネオペルトっていうんだ」

「ネオペルトって……あの、ネオペルトか? 茨戦争の?」

「う、うん……そうらしいんだ、でも……その、実は僕子どもの時の記憶が無くて……自分が光使いだっていうのもついこの間知ったばかりなんだ……お父さんが、育ててくれたお父さんが、憲兵に殺されて……死んじゃう直前に僕が光使いだって……この剣も渡されて……それで、チェリルっていう子を救ってくれって、城にいるからって……君、城でチェリルっていう子を見たことがある?」

「いや、それはサテルの城じゃなくて今は廃墟になってるエルライード城のことだろうな……十二年前に起こったエルライードの惨劇の場所だ。あの時にサテルに殺された国王夫妻の娘がチェリルっていう名前だったはずだぞ」

「ハティルたちの国の名前だ~~!」

 確かにサテルの居城はエルライード王国の国王の城であるにも関わらず、国の名を冠していない。ナタラ城という名前は、エルライードの前の国名だ。あまり深く考えたことが無かったな、とテトは自分がこれまでぼんやりと生きてきたことに改めて気がついたのだった。基礎学校でエルライード城のことはあまり習わなかったのだ。

 ハタナ王国王都ハタルムのハタナ城がエルライード王国王都エルラムのエルライード城と名を改めたということ、それからエルライードの惨劇と呼ばれる事件で魔王サテルが復活し王都が遷都されたこと、それだけだった。初代エルライード国王の名前がテルナ、王妃の名前がフィーシェ、ということも知っている。しかしその娘である姫の存在は聞かされていなかった。ダグの祖父であり、テトとダグに教えを施していたアシルが国王夫妻には娘がいて、とまで言って突然部屋から出て行ったことが一回だけあったことをテトはふと思い出す。あれはきっとそのチェリルという姫の話をしようとしたのだろう。

「じゃあそのエルライード城に行けばチェリルに会えるのかな……でもそんな廃墟でチェリルは一人で何してるんだろう? 大体、そんな状況で一人で生きられるのかな」

「そもそもエルライード城はサテルのせいで今や茨に包まれて中に入ることもできねぇって話だけどな」

「……でも、僕はお父さんの最期の言葉をちゃんと叶えたいんだ……だから、僕はエルライード城を目指すよ」

「けどアンタは今じゃ王都で武装した上に脱獄した犯罪者だぞ、乗合ティミンを使えねぇだろ」

「君が僕のことをここに呼びつけなければ大丈夫だったんだけどね⁉ そもそも君がお財布を忘れたから悪いんじゃないの⁉」

「いや、それは本当に悪かった……」

 テトがギロリとレックスを睨みつけると、彼は申し訳なさそうにその眉間に皺を寄せた。今日テトが王都に来たのは彼に会いに来たからで、彼があの日財布を忘れなければ出会うこともなかったのだ。しかしながら父の遺言の中に他の光使いに出会い魔王を討てというものもあったので、同じ光使いである彼にはいずれ出会うことになっただろう。探す手間が省けたという点においては良かった。

「……僕のお父さんが、他の光使いと出会って魔王を倒してくれって……悪いと思ってるなら魔王を倒すのに協力してくれる?」

「まぁ……俺の最終的な目標もサテルを倒すことだからな」

「君はサテルを倒す為に城に居たってこと? そもそもどうして君はサテルを?」

「……王都で武装するには憲兵になるしかねぇから。おかげでそれなりに強くなれた」

 それなり、と彼は言うがAITH第二位ということは憲兵隊の中で二番目に強いということだ。そんな彼が本当に協力してくれるというならばこの上なく頼もしい。しかし何故サテルを倒そうと思うのかというテトの問いには答えたくないようだ。テトは彼に向けて手を差し出した。

「レックス、ありがとう。心強いよ」

「……アンタ、すぐに人のこと信じるんだな」

「じゃあ君は嘘をついたってこと?」

「いや……そうじゃねぇけど……悪ィ、変なこと言ったな」

 にこやかに笑ってレックスは謝る。一見柔らかそうな笑みだが、これ以上は何も聞いてくれるなという圧をテトは感じた。そんな、交わした二人の手をハティルが両手で包む。彼女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

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