第99話 表層の修復
環象社の本社フロアでは、文面が急ピッチで整形されていた。
『広域異常は自然収束』
『特殊対応により被害を局限』
『詳細は調査のうえ、改めて』
調査の中身は、表に出ない。
出さないことが、最初から決まっている。
「Sを超える表記は使うな」
「目撃の過剰分は、エージェント対処で統一」
「白き終焉の語は、出すな」
指示が飛ぶ。
スポンサー向けの安心が、先に作られる。
巨大な白が何だったのかは、記録の奥へ沈む。
同じ時刻、黒鋼の上位では別の沈黙があった。
「02に届かず、広域異常にも触れられず」
「三傑の格は、再評価が必要」
「確保方針は残す。ただし再接触は凍結のまま」
イサオは、画面を見たまま短く言う。
「現場は回収を続けろ。
深追いはさせるな」
揺れている。
方針の文言は同じでも、実現可能性が削れたあとの揺れだ。
廃ビルの上階に、【01(ライトニング)】が戻ってくる。
足音は少ない。
二刀は鞘にあり、布は目の上に戻っている。
窓の外の空は、まだ濁っている。
白の核は消えた。
消えても、歪みの根は残る。
対症療法の外側で、最大の牙だけが折れた。
『……まだ、足りない』
誰にも届かない声だった。
それでも今夜は、膝をつかずに立っていられる。
遠方で、番号たちはそれぞれの現場へ散っていく。
集合しない。
通信しない。
結果だけを共有して、また個別の夜に戻る。
表層は、修復される。
安心の文面が、街に流れる。
「平常通りお過ごしください」
平常の定義が、また少しだけすり替わる。
その下で、影は残ったまま歩いている。




