第98話 余波
白が散ったあとの空は、ただ濁っていた。
爆発の痕もない。
焼けた匂いもない。
巨大なものが、最初からなかったように消えて、人々は規制線の外で固まったまま立ち尽くす。
環象社の拡声器が、遅れて定型に戻る。
「原因不明の広域異常は収束しました。被害は調査中です」
調査中。
誰も、中心で何が起きたかを知らない。
廃ビルの方角では、【02(ヘイル)】が損傷の体を壁に預けていた。
『……終わったな』
【03(レイン)】が、唇を噛みながら呟く。
『何なの...01って何なの。バケモンかよ』
『お巫女にゃ敵わんねぇ』
『知ってる』
【04(イラプション)】は遠方から、白の消えた地平を見る。
弓は下ろしたまま。
『……01が、斬った』
【05(ライトピラー)】は翼を畳み、腕を組む。
『見せ場、全部持ってかれた』
【06(ハリケーン)】は槍を立て、静かに息を吐く。
【07(オーロラ)】は屋根の端で、面倒そうに空を見る。
『重いの、消えた。なら帰るね』
それぞれが、結果だけを受け取る。
集合もしない。
祝いもしない。
最大の牙が折れた事実だけが、番号のあいだを薄い圧で結ぶ。
別の場所で、加賀美リンは避難所の窓から空を見ていた。
カツヤが、隣で端末を握る。
「……なんだったんだ、あれ」
「分からない。
でも、収束した」
証明はない。
七嵐の名も、今は口に出さない。
なのに二人とも、影の側が動いた感触だけは共有していた。
アヤは、社の屋上から同じ空を見ていた。
私用メモは開かない。
光を失った眼の記憶が、一度だけよぎって消える。
『深入りしすぎるな。生きろ』
その言葉のあとに、巨大な白が消えた。
追わない。
今日は、追わない。
地平の近くで、【01(ライトニング)】はまだ片膝をついている。
二刀は鞘に戻っている。
布の下の眼は、光を持たない。
持たないまま、散った白の残滓を測り続ける。
青は、まだ戻っていない。
それでも、最大の牙は折れた。




