第94話 巨大な白
セレスティーヌが折れた夜のあと、空の色が変わった。
点ではない。
面でもない。
街の外側から、巨大な白がゆっくりと立ち上がる。
看板も、塔も、遠景の輪郭が溶ける。
環象社の端末が、ランク表の外で赤く点滅する。
「S……では足りない」
現場の誰かが呟く。
避難指示が全域に広がる。
なのに、説明文が追いつかない。
廃ビルの上階で、【01(ライトニング)】は鞘に両掌を置いた。
今までの残響より、大きく太い。
00の起動の夜に近い。
近いのに、00そのものではない。
残響が、形を持って立ち上がっている。
『……来る』
誰にも届かない声だった。
通信はない。
なのに、夜の街を横切る気配の質が違う。
遠方で、損傷の残る【02(ヘイル)】が空を見る。
【03(レイン)】も、赤く染まった雨の記憶のあとに、重い気圧を感じて顔を上げる。
『……01の、か』
『知らねえ。でも、あいつの土俵だ』
【04(イラプション)】は弓を握ったまま、近づかない。
測れない。
測れないと知っているから、射線を下ろす。
【01(ライトニング)】は廃ビルを出る。
二本の刀のうち、まだ片方は鞘にある。
抜くタイミングは、白の中心で決める。
巨大な白が、地平を埋める。
人々は逃げる。
環象社は定型を失いかけ、黒鋼は記録を取る手を止める。
その中を、布で目を覆った影が一人、白へ向かって歩く。
青は、まだ戻っていない。
戻すための夜が、ここで始まっていた。




