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第93話 静かな牙

雨が、音を失っていた。

【03(レイン)】は大鎌を下ろしたまま、前に出る。

叫びはない。

暴れる軌道もない。

なのに、セレスティーヌの異形の目が、初めて警戒に寄る。

「……03」

『触るな』

短い。

静かな怒りだった。

次の一歩で、雨が世界を塗り替える。

互角の往復が消える。

粒子の腕が防いでも、防いだ先に次の刃がある。

退いても、雨が先にいる。

セレスティーヌが押し返す。

簡易的なダイヤモンドダストが面で張る。

張っても、刈られる。

02を受けた熱が、03の中で静かに増幅している。

『あいつを、傷つけた』

涙が、頰を伝う。

泣き崩れる形ではない。

怒りが、目から溢れているだけだ。

「別格、ね……!」

セレスティーヌの粒子が砕ける。

再構成が間に合わない。

異形の左腕が、また形を失い、本体の装甲が深い裂傷を受ける。

最後の押し合いが、両者を同時に削る。

【03(レイン)】の鎌がセレスティーヌの中枢近くまで届く。

届いた代わりに、白い残滓が03の側面をえぐる。

短い沈黙のあと、セレスティーヌが膝から崩れる。

「これが……白。

 これが、三傑。

 私程度で、掌握できるはずもなかったわ」

声は、もう信仰の高さではない。

事実の確認に近かった。

【03(レイン)】も、その場に片膝をつく。

制御が、熱のあとに落ちる。

キレたあとの反動が、小柄な体を外側から潰す。

『……くそ』

遠くで、煙の中の【02(ヘイル)】が、低い声を出す。

『……まだ、生きてるな。チビ』

『うるさい……死んでないし』

『よかった』

短い冗談が、血と雨の上に落ちる。

二人とも、立てない。

立てないまま、同じ空を見る。

『……01なら、もっと速く終わらせたかな』

『知らねえ。あいつの土俵だ』

笑い方は、弱い。

なのに、確かに笑っている。

セレスティーヌの気配は、もう戦場の主ではない。

異形の白は、三傑の手前で折れた。

環象社の拡声器が、遅れて流れる。

「異常気象は収束に向かっています」

収束の文面の下で、二人の三傑が並んで沈んでいた。

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