第92話 庇う側
雨の密度が、さらに上がる。
【03(レイン)】が前に出る。
感情が刃になり、セレスティーヌの粒子を連続で刈る。
届く。
届くが、異形の白は粘る。
「感情で増幅するタイプね。03は」
セレスティーヌの腕が、側面から入る。
回避の半拍が、遅い。
その軌道の先に、砲身が割り込む。
『——ッ、チビ!』
【02(ヘイル)】が、03を背に受ける。
雹の装甲が、粒子の直撃を全部引き受ける。
音が重い。
蒸気が噴き、【02(ヘイル)】の片膝が落ちる。
『……02!』
『動くな』
短い制止だった。
なのに、声の温度がいつもと違う。
セレスティーヌが、間合いを測る。
「今のが、本音」
【02(ヘイル)】は砲を支えに立ち上がる。
立ち上がりきれない。
可動が落ち、照準がぶれる。
『知らねえよ。邪魔が来るから潰しただけだ』
『嘘つけ! なんで——』
『うるさい。お前は放っておけねえんだよ』
戦場の音が、一瞬だけ薄くなる。
からかう声ではない。
切れでもない。
02の中で、長いあいだ言葉にされなかった位置が、損傷のあとで露出する。
【03(レイン)】の目が、見開かれる。
セレスティーヌは粒子を再構成し、静かに言う。
「三傑の内側にも、優先がある。
面白い」
『面白くねえ』
【02(ヘイル)】が、残弾を叩き込む。
威力は落ちている。
落ちていても、03の前を明け渡さない。
次の粒子が、02の胸を抉る。
装甲が裂け、出力が急落する。
砲が路面に落ちる。
『……02!!』
【03(レイン)】の声が、裏返る。
【02(ヘイル)】は、煙の中で片方の手だけを上げる。
『まだ……死んでねえ。
お前が、やれ』
戦闘不能に近い。
なのに、目は03を見ている。
雨脚が、止まる。
止まったあとの静けさが、逆に怖い。
【03(レイン)】の肩が、ゆっくりと下がる。
暴れる前の、静かな怒りがそこにある。
セレスティーヌが、異形の目を細める。
「……来る」
雨が、音を失って、牙になる。




