第90話 別格へ触れる
雨と雹が、同じ街区で重なっていた。
環象社のランクはA。
拡声器が全避難を流し、人の気配が急速に消える。
その中心で、【02(ヘイル)】が砲を担ぎ、【03(レイン)】が大鎌を回す。
『……面倒くさい重なり方』
『あたしの雨に、雹入れるな』
『お前が先に暴れてんだろ』
短い言い合いの最中に、空気の質が変わった。
異形の左腕。
赤い片目。
粒子を纏った女が、水煙の向こうに立つ。
「わたしはセレスティーヌ。
改めて、三傑に触れる」
【02(ヘイル)】の目が、細くなる。
『白に寄った人間か』
「寄ったのではない。迎えている」
簡易的なダイヤモンドダストが、路面を薄く這う。
リェンほど荒くない。
01には遠く及ばない。
それでも、02や03の単体と互角程度まで押し上げられた熱がある。
【03(レイン)】が、鎌を構える。
『……嫌いな匂い』
最初の衝突は、速い。
雹の砲弾と、雨の鎌と、白い粒子が交差する。
セレスティーヌは精密ではない。
なのに、異形の腕が間合いを食い、二人の出力に抵抗を混入させる。
『ちょっと、重い』
『力、持ってかれる感じがする』
数合のあと、距離が一度開く。
セレスティーヌは粒子の腕を構え直しながら、短く息を整える。
「あなたたちは、歪みを正す実行機。
でも本質は——最初から兵器よ」
【02(ヘイル)】の砲口が、一瞬だけ止まる。
『はあ?』
「あなたたちを生んだ側は、最初からこう呼んでいた。
最終防衛兵器。
国家規模の戦争で、気象そのものを戦力化する計画の中核」
雹の音が、一度遠のく。
「環象社の前身は、研究と防衛の境を溶かした。
歪んだ自然を抑え、同時に——必要なら敵地の空も壊す。
その両用のために、現象核を積み、番号を振った」
【03(レイン)】の鎌が、止まらない。
止まらないまま、軌道が少しだけ荒くなる。
『……戦争の道具、だと』
「道具以上よ。意思を持たせて、現場判断までやらせる兵器。
00が統御し、01以下が実行する。
人間の指揮系統より速く、気象災害にも戦線にも出せる」
【02(ヘイル)】が、低い声で言う。
『で、00が死んで、命令が消えた』
「消えたあと、あなたたちは“正す”側だけを残して走り続けている。
作られた目的の半分だけを、誰にも命じられずに反復している」
簡易的なダイヤモンドダストが、路面を削る。
「英雄でも、守護者でもない。
製造番号のついた、最終防衛兵器。
鎮圧が対症療法なのも、その設計の延長。
原因を癒やす装置ではなく、牙を一時的に折る装置として作られた。
だから青は戻らない」
【03(レイン)】が、短く吐き捨てる。
『知ったところで、あたしは雨を刈る』
言葉は強い。
なのに、握る手が白い。
【02(ヘイル)】は砲を撃つ前に、一度だけ息を吐く。
『……兵器、か。最悪の命名だな』
認めない。
なのに、否定しきれない重さが、水煙の中に落ちる。
セレスティーヌは微笑まない。
信仰の熱で、事実を置いただけだった。
「だからこそ、白で上書きする。
終わらない対症療法を、一度で終わらせる」
次の衝突が、その宣言の上で始まる。
雹と雨が、異形の白へ同時に噛み合う。
戦闘は、まだ入口だった。




