表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/107

第87話 それでも足りない

緑色の干渉場が、工業地帯の路面に広がっていた。

ノアの抗現象兵装が、【02(ヘイル)】の出力を濁らせる。

砲から溢れる冷気が、いつもの密度ではない。

セラスはその隙を読み、精密に間合いを詰める。

「左、塞いだ」

「出力、十二パーセント減。まだ下げられる」

二人の連携は、速い。

ガルスの暴力とも、単独の突破とも違う。

理で削り、手順で押す。

04を追い詰めた夜の延長が、ここにある。

【02(ヘイル)】が砲を担ぎ直し、半歩下がる。

『……面倒くさいな』

その一歩が、守勢に見えた。

セラスの刃が、装甲の外側を浅く掠める。

血は出ない。

なのに、初めて“届いた”感触だけが手に残る。

「当たった」

「続ける。中枢は狙わない。可動を落とせ」

ノアが干渉場をさらに絞る。

緑色の脈動が強くなり、【02(ヘイル)】の砲身がわずかに遅れる。

次の照準が、半拍遅い。

セラスが踏み込む。

ノアが側面を埋める。

押している。

押しているように見えた。

遠方の監視班が、息をのむ。

「上位が、02を後退させている」

「三傑でも、理が通るのか」

その言葉が終わる前に、空気が変わった。

【02(ヘイル)】が、顔を上げる。

面倒そうな目が、温度を失う。

『そんなんじゃ、足りねえよ』

砲口が、最短でセラスに向く。

発射音より先に、衝撃が来る。

セラスの精密な守りが、真横から崩される。

刃が弾かれ、足場が沈み、体が後方へ滑る。

防いだ。

防いだのに、腕の骨が鳴る。

「——ッ」

ノアが干渉を強める。

数値が跳ねる。

出力低下は、確かに起きている。

なのに、届く圧力が段違いだ。

『測るな』

短い声と共に、二発目が走る。

今度はノアの方だ。

緑色の干渉場が、雹の直撃でひび割れる。

兵装の回路が悲鳴を上げ、眼鏡が曇る。

「低下は機能している。なのに——」

『機能しても、土俵が違う』

【02(ヘイル)】が、初めて踏み込む。

砲の射程を捨て、間合いを自分で潰しに来る。

セラスが立て直して斬り結ぶ。

斬り結べる。

なのに、体重も、速度も、判断の深さも、全部が上から被さる。

三合。

五合。

その短い往復のあいだに、セラスの呼吸が乱れる。

ノアの兵装が、連続で再調整を強いられる。

「セラス、下がれ」

「まだ——」

『まだ、とか言うな』

三発目が、二人の中間を叩き、路面を白く抉る。

立っていられることが、すでに限界に近い。

セラスの膝が、つく。

つかないように踏ん張って、結局つく。

ノアは干渉場を維持したまま、一歩、また一歩と後退する。

「理解した。十分だ」

「データは——」

「取れた。生きて持ち帰れ」

【02(ヘイル)】は、止めを急がない。

急がないことが、一番の差だった。

倒すために全力を出す必要がない。

測ってきた側が、測りきれずに崩れている。

『帰れ。次は、残さねえぞ』

砲口が、ゆっくりと下がる。

許したのではない。

相手として、もう足りないと判断しただけだ。

セラスが、血の混じった息を吐く。

「……三傑、か」

ノアが眼鏡を直す。

手が、わずかに震えている。

「抗現象でも、本質は変わらない。

 下げた格が、まだ上だ」

二人は煙の向こうへ退く。

追撃はない。

ないまま、工業地帯に雹の粉だけが残る。

【02(ヘイル)】は空を一度見、残った歪みを短く撃ち落とす。

収束は早い。

人の戦いのあとでも、仕事は淡々と終わる。

『……黒鋼も、まだ分かってねえな』

誰にも届かない言葉だった。

遠方で、環象社の拡声器が定型を流す。

「雹は収束に向かっています。被害は最小限です」

最小限。

その文面の裏側で、上位二人の背中だけが、重く沈んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ