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第86話 測れる格

工業地帯の上空で、雹が白い音を立てていた。

環象社のランクはB。

硬い打撃が連続し、看板が割れ、人が規制線の外へ流れる。

遠方の監視位置で、セラスが双眼鏡を下ろす。

「対象02。単独」

横で、逆理のノアが端末の数値を見る。

眼鏡の奥に、緑の光が薄い。

「出力、安定している。前回の04・05とは桁が違う」

「三傑だ」

短い確認だった。

二人とも、黒鋼上位だ。

末端が噂でしか知らない格を、実戦データとして踏んできた側。

ガルスが倒れたあとも、セラスは精密に、ノアは理で、対象を測り続けている。

それでも、今夜の空気は違った。

雹の中心で、【02(ヘイル)】が砲を担いで立つ。

照準は短い。

一発で、空の軌道が変わる。

氷の粒が途中で砕け、粉になる。

暴れていた雹が、強引に、だが正確に押さえ込まれていく。

セラスの指が、双眼鏡の縁で止まる。

「……速い」

「収束の手数も、少ない。無駄がない」

ノアが、静かに息を吐く。

「04のときは、損傷後でも測れた。

 05は好戦で、間合いが読めた。

 これは——」

言葉が、一度切れる。

「恐ろしい」

セラスが、低い声で続ける。

「三傑を、報告書の外で見るのは初めてだ。

 同じ七嵐でも、土俵が違う」

二人の間に、短い沈黙が落ちる。

確保優先。

壊すな。

その方針は変わらない。

なのに、足の向きが、半拍重い。

「抗現象は使う」

ノアが兵装のコアに触れる。

「下げても、足りない可能性がある。

 それでも測る。理解しなければ、次がない」

「了解。私が前、あなたが理」

二人は規制の内側へ入る。

末端の回収班ではない。

上位の実務として、別格の前に立つ。

雹の粉が舞う中心で、【02(ヘイル)】がようやく顔を向けた。

『……黒鋼の上位か。前にもいたな』

「対象02。確保を試みる」

セラスの声は平坦だ。

平坦なまま、手が微かに汗ばんでいることは、誰にも分からない。

ノアが干渉場を展開する。

緑色の光が地面を走り、雹の出力が濁る。

『……あ?』

砲の重さが、半拍だけ変わる。

完全ではない。

なのに、いつものキレが落ちる。

セラスが間合いを詰める。

精密な牽制。

ノアが理で削り、セラスが手順で押す。

04のときは、それで十分に見えた。

【02(ヘイル)】は、短い息を吐く。

『足りねえよ』

砲口が、ゆっくりと二人に向く。

測る側の顔から、余裕が消え始める。

三傑の格が、報告書の外で、実体として覆い被さってくる。

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