第84話 現着
白い粒子が、失われた腕の断面でまだ暴れていた。
セレスティーヌが膝をついたまま、簡易的なダイヤモンドダストを呼び込む。
その熱が形を成す前に、空間の圧が変わった。
速い。
誰の足音も、予兆もない。
気づいたときには、布で目を覆った女が、白の中心に立っていた。
【01(ライトニング)】だ。
『……そこまでだ』
声は低い。
なのに、港の空気が一斉に静まる。
セレスティーヌが顔を上げる。
異形の片目が、その影を捉える。
「……01」
刀は、まだ鞘にある。
抜く必要を測っているだけだ。
白い残響が、01の周囲で薄く寄る。
寄って、弾かれる。
【04(イラプション)】は弓を構えたまま、その光景を見ていた。
06と07も、背後で息を殺す。
セレスティーヌは、すぐに理解した。
今の自分では、足りない。
「……一時、下げる」
宣言は短かった。
粒子の腕を抱え込むようにして、煙の向こうへ身を切る。
【01(ライトニング)】は追わない。
追うより、残った白を先に刈る。
一閃。
結果だけが残り、面の粒子が欠ける。
港に、熱と風の残りだけが戻る。
【04(イラプション)】が、ゆっくりと弓を下ろす。
視線は、セレスティーヌの消えた方ではない。
01の背中だ。
『……あの白と、あなたは繋がっている』
問いではない。
確認に近かった。
【01(ライトニング)】は鞘に手を置いたまま、少しだけ止まる。
『今は、語らない』
『廃ビルで語ったはずだ。00のことも、終焉のことも』
『残響の核は、まだ出せない。
出すと、寄る』
短い拒絶だった。
なのに【04(イラプション)】は、それ以上追わない。
追っても、今の01からは同じ温度しか返ってこないと分かっている。
【06(ハリケーン)】が、静かに近づく。
『……ありがとうございました』
【07(オーロラ)】は双銃を担ぎ、面倒そうに息を吐く。
『めんどくさい夜だった』
【01(ライトニング)】はもう、答えない。
白い残響の端を測り、廃ビルの方へ背を向ける。
焦りは、消えていない。
消えないまま、次が来ることを、彼女は知っていた。




