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第83話 揺さぶり

セレスティーヌは、分身体で二つの現場に同時に立った。

港では【06(ハリケーン)】の前に。

屋根の連なりでは【07(オーロラ)】の前に。

同じ顔、同じ声。

「わたしはセレスティーヌ。

 白を迎える側の人間」

短い自己紹介のあと、取り込むための言葉に入る。

港の分身体が、槍を構える06に静かに続ける。

「命を奪うことを是としないあなたと、わたしは考え方が同じだ」

「争いは好まない。守るものが先。

 その位置は、正しい。

 白の側でも、同じ正しさを使える」

【06(ハリケーン)】の指が、槍の柄で一度だけ止まる。

否定はすぐ出ない。

出ないこと自体が、揺らぎだった。

『……私は、風を正すだけ』

「正す先に、何を残したい」

同じ時刻、屋根ではもう一つの分身体が、双銃を構える07に微笑む。

「何も考えていないのではない。

 考えると、壊れてしまうから——本能で逃げている」

【07(オーロラ)】の目が、一瞬だけ見開かれる。

『……はあ?』

「軽いふり。面倒くさいという壁。

 その奥を、わたしは見ている」

乱射の手が、半拍遅れる。

二つの現場で、心が揺れる。

その隙間に、取り込む輪が光る。

次の瞬間、風も光も、出力が濁った。

ノアの抗現象とは違う。

似ているが、より強引だ。

操る経路へノイズを混入するだけでなく、現象核の表面から力を削り取る感触がある。

【06(ハリケーン)】の槍が、風を呼びきれない。

【07(オーロラ)】の双銃が、光の粒を散らしきれない。

『……何、これ』

『出ない——』

セレスティーヌの分身体が、同時に一歩踏み込む。

「寄せられる。あなたたちは、白の側でも生きられる」

押される。

心の揺らぎと、力の低下が重なり、06も07も後退する。

倒されてはいない。

なのに、主導権がない。

その圧が頂点に達する直前、高所から矢が一本、軌道を裂いた。

『近づかないで』

【04(イラプション)】が、壊れたクレーンの上に立つ。

抑止の声だ。

今は、抑止だけでは足りない相手だと分かっている。

「04……」

セレスティーヌの本体が、顔を上げる。

分身体を畳み、一人に戻る。

06と07から手を引き、新しい敵へ向き直る。

矢と、白い信仰の熱が交差する。

【04(イラプション)】は距離を取り、連続で射線を置く。

セレスティーヌは精密ではない。

なのに、力を奪う輪と、異質な圧で間合いを詰めてくる。

押される。

04の矢が弾かれ、足場が削られる。

06と07は、その背中の後方で息を整えるのが精一杯だ。

『……退いて。今は私が——』

言い切る前に、空気の質が変わった。

熱でも光でも風でもない。

白い残響が、面で落ちてくる。

セレスティーヌの左腕が、粒子に抉られる。

防いでも、遅い。

白い感触が肩から先を喰い、手が、形を失う。

短い悲鳴が、港に散る。

【04(イラプション)】も【06(ハリケーン)】も【07(オーロラ)】も、その白には踏み込まない。

01が追う種類の気配だと、本能が先に理解する。

セレスティーヌは膝をつき、失った腕の断面を見る。

痛みより、熱が勝つ。

「……これが、白」

押していた夜が、白に片方の手を差し出す夜へ変わった。

彼女は粒子を呼び込む。

簡易的なダイヤモンドダストが、血の代わりに腕の形を作り始める。

完全ではない。

なのに、以前より白に近い。

追撃は、そこで止む。

止んだ先で、異形の熱が——次の獲物へ向き始めていた。

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