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第82話 違う眼
帰宅しても、アヤの手は冷たかった。
私用メモを開く。
今夜は、ほとんど書けない。
『雷。B。目隠しを外した。
眼は、光を失っていた。
姉ではない』
それだけだ。
習慣のメモの分量ではない。
重みだけが、ページに沈む。
姉の写真を開く。
並べる必要はない。
輪郭は近い。
なのに、今しがた見た眼は、写真のどこにもない。
慕っていた。
跡を追った。
死は小さく処理された。
提供記録が残っていた。
だから追った。
追い着いた先にいたのは、姉ではなかった。
似ていて、同じではない誰かだった。
「……会いに行った」
声に出しても、答えは来ない。
アヤは写真を伏せ、窓の外の濁った空を見る。
暴く決意が、消えたわけではない。
なのに、足の向きが少し変わっている。
リンの言葉が、戻ってくる。
『私たちは、もう十分です』
『巻き込まれたくありません』
十分、とは何なのか。
知ってしまった側の、止まれる地点なのか。
アヤには、まだ分からない。
ただ、一つだけはっきりした。
追いかけていた顔の奥に、姉はいない。
姉の眼は、あそこにはない。
私用メモの最後に、短い一文を足す。
『眼が、違う。
それでも、終わってはいない』
環象社の夜勤灯が、遠くで白い。
表の文面は、明日も整える。
整えたあとに、何を追うかは、今夜は決めきれない。
青は、まだ戻っていない。
アヤの胸の中でも、同じだった。




