第81話 私は、あなたの姉ではない
煙の向こうで、二人の距離はもう近かった。
アヤの声が、掠れる。
「顔が……同じです。
私の姉と」
【01(ライトニング)】は、すぐには答えない。
電磁の流れで、相手の鼓動と位置を測る。
敵意ではない。
執着でもない。
確かめるための、熱い視線だ。
「姉は、環象社にいました。
計画にデータ提供した記録が残っています。
あなたは——」
『私は、あなたの姉ではない』
短く、明確だった。
アヤの喉が、詰まる。
「でも、顔が——」
【01(ライトニング)】の手が、布の端に触れる。
ためらいではない。
必要だから外す、という動作だ。
布が落ちる。
その下にあった眼は、光を失っていた。
冷たく、悲しく、何も映さない。
姉の写真の中にあった、優しい光とはまったく別物だ。
アヤの足が、止まる。
顔は似ている。
輪郭も、髪も、近い。
なのに眼が、決定的に違う。
生きていた姉の眼ではない。
光を失った者の眼だ。
『似ていても、同じではない』
【01(ライトニング)】の声に、わずかな感情が混じる。
慰めではない。
事実の提示だ。
アヤは、その眼から目を離せない。
追いかけていた正体が、正体のまま、目の前で開かれた。
「……なんで」
『答えられる範囲は、ここまでだ』
布を、再び手に取る。
覆う前に、もう一度だけアヤの方を向く。
見えない眼が、それでも正確に相手を捉えている。
『深入りしすぎるな。
生きろ』
それだけ言って、【01(ライトニング)】は煙の奥へ身を溶かす。
追おうとしても、軌道が残らない。
アヤはその場に立ち尽くし、落ちた布の感触ではなく、光を失った眼だけを記憶に残す。
姉ではない。
瓜二つで、姉ではない。
雨の匂いのしない夜に、アヤの調査は、一つの答えと、より大きな空白を同時に受け取った。




