第80話 雷の棲む場所へ
注意報が、発令に切り替わった。
環象社の端末に雷のBが点灯し、拡声器が避難を流す。
アヤは、申請済みの現場同行票を握ったまま、規制の外側まで来ていた。
同僚が無線で止める。
「白石さん、写真はここまでで十分です」
「もう少しだけ」
もう少し、では足りない。
私用メモの一文が、頭の中で繰り返される。
『次は規制の外で終わらせない』
姉の提供。
01の欠損ログ。
リンから聞いたアンドロイド。
イサオの「深入りするな」。
全部が、今夜の雷に集まっている。
焦げた匂いが先に来る。
電柱が折れ、路面に黒い筋が走る。
収束は早い。
早すぎるほどだった。
煙が切れた隙間に、白い装甲の女が立っている。
布で覆われた目。
長い黒髪。
鞘に手を置いたままの静かな姿。
アヤの呼吸が、止まる。
姉だ。
正確には、姉に見える。
輪郭が、唇の形が、髪の落ち方まで近い。
『……行く』
短い声が、風に溶ける。
姉の声に似ている。
似ているが、温度が違う。
アヤは規制のコーンを掴み、声を上げる。
「待って——」
女が、足を止める。
止めた事実が、アヤの胸を叩く。
見られている。
目は布の下でも、確実にこちらを測っている。
アヤは、震えを隠さずに一歩出る。
「あなたは……誰ですか」
煙の向こうで、【01(ライトニング)】は刀を抜かない。
抜く必要のない相手だ。
なのに、気配の質が民間のそれではないことを、彼女は感じていた。
対峙は、ここから始まる。




