第75話 呼ぶ前
廃ビルの上階で、【01(ライトニング)】は鞘に両掌を置いていた。
直前の白い残響のあとも、白は街の底から抜けない。
斬っても、面で戻る。
一人で足りる境界が、もう見えない。
『……限界だ』
誰にも届かない声だった。
通信手段はない。
それでも、今夜の圧は違う。
呼び寄せるための圧ではない。
自分が発している、呼び出すための気配だ。
遠方で、【02(ヘイル)】が砲の冷却を止める。
『……お巫女?』
追う理由のない方向から、明確な引力が来る。
嫌でも分かる。
01が、揃わせようとしている。
【03(レイン)】は雨の残りを払う手を止め、空を見る。
『……何、この感じ』
【04(イラプション)】も、修復の途中で顔を上げる。
【05(ライトピラー)】は翼を畳みかけた指を止める。
【06(ハリケーン)】は槍を立てたまま、風の向こうを測る。
【07(オーロラ)】は屋根の端で、面倒そうに眉を寄せる。
呼ばれてはいない。
なのに、同じ廃ビルの方角が、全員の感覚に刺さる。
【01(ライトニング)】は布の下で、光を失った眼を開いたままにする。
00の残響が、今夜は近い。
近いから、一人では持たない。
近いから、隠してきたことを、出す必要がある。
『来い』
声には出さない。
出す必要がない。
気配だけが、夜の街を横切る。
環象社の拡声器が、定型を流す。
「現在、大きな発令はありません」
発令のない夜に、七嵐が同じ地点へ向き始めていた。
揃うことなど、今までほとんどなかった。
その異常さごと、集合の前夜が始まっていた。




