第7話 噂の温度
黒鋼の末端会議室は、湿度を残したまま蛍光灯が白かった。
壁の端末に、現場写真が並ぶ。
切れすぎた断面。
収束後の路面。
誰も写っていない空。
「また痕跡だけか」
誰かが呟く。
「雨のあとに雹。手口が違う。同一部隊じゃ説明しづらい」
「上は回収優先だ。壊すな、中枢を残せ、だってさ」
その言葉に、若い隊員が顔をしかめる。
「倒すんじゃなくて、取るのか」
「黙って聞け。お前は現場だ」
部屋の隅で、別の声が資料を置く。
「噂がある。強いのが三体いる」
端末が切り替わる。
鮮明ではない影。
長身に砲。
小柄に大鎌。
そして、ほとんど残っていない軌跡。
「雨と雹はまだ確認が取れる。問題はもう一体だ」
「雷の現場だろ。結果しか残らねえ」
「動いてないように見える、って報告もあった」
笑いが出る者もいれば、笑えない者もいた。
噂の温度は、室内で一定にならない。
上席が咳払いをする。
「三体を、個別に見るな。まとめて危険物だ。
ただし破壊より確保。これは上層の方針だ」
誰も、その方針の奥までは知らない。
知っているのは、追うたびに足元だけが濡れていくことと、
対象の強さが数字にならないことだけだった。
「08が消えた件は」
短い沈黙が落ちる。
「確認できない。ただ、一体で手こずってた相手が消えたのは事実だ」
端末の端に、古い衝突記録が残っている。
今はもう、続かない記録だ。
会議は終わる。
隊員たちは席を立ち、それぞれの現場へ戻る。
廊下で、誰かが小さく言った。
「ほんとに、人なのか」
誰も答えなかった。
答えられるほど、彼らはまだ近くにいない。
噂だけが、湿度の高い室内に残った。




