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第69話 呼んでいいのは

雨音と、鎌を叩きつける音が、何度も重なっていた。

すでに息の根は止まっている。

なのに【03(レイン)】は止まらない。

水路に沈んだ体へ、軌道を重ね、重ね、刈り続ける。

流血と雨が混じり、あたり一面が薄く赤く染まっていく。

怒りというより、キレすぎて制御が戻っていない顔だった。

次の一撃が振り下ろされる瞬間、横から重い衝撃が走る。

雹砲の一発が、鎌の軌道を弾いた。

『やりすぎだ、チビ』

【02(ヘイル)】が、蒸気の向こうに立つ。

砲口から薄い蒸気が上がっている。

『お前まで...!呼ぶなっ!呼ぶな!』

【03(レイン)】が、ゆっくりと顔を上げる。

目は、まだ怒りの残熱で赤い。

『やりすぎだ、チビ』

『呼ぶな! 勝手に止めるな!』

鎌の柄が、きしみ音を立てる。

【02(ヘイル)】へは向かない。

なのに声だけが、牙を剥く。

『邪魔すんな! あいつは——』

『終わってる。死体に何回重ねても、同じだ』

『同じじゃない!』

雨脚が、また荒く跳ねる。

完全には収まらない。

【02(ヘイル)】は砲を下ろさず、動かない。

『おおかた、チビって言われたんだろ』

『呼ぶな!!』

『呼んでんだよ。

 チビって呼んでいいのは、あたしだけだろ』

からかう声だった。

なのに、止めに来た側の声でもあった。

【03(レイン)】の喉が、低く鳴る。

『……ふざけんな。お前も、いつか同じように殺してやる』

言葉は鋭い。

鎌は、それでも【02(ヘイル)】へ向かない。

向かないことを、両方とも知っている。

【03(レイン)】は、自分が02に敵わないことを理解している。

斬撃の速度も、感情の熱量も、キレた瞬間の破壊力も、今夜の自分は高い。

それでも、02の冷静さと距離の支配には届かない。

本気でぶつれば、止められる側になる。

だから襲わない。

襲えないのではなく、襲っても勝てないと分かっているから、牙を声にだけ残す。

『はいはい。分かった分かった』

【02(ヘイル)】は肩をすくめ、砲を担ぎ直す。

『いいから鎮めろ。雨、まだ残ってる』

『うるさい!』

【03(レイン)】は舌打ちをし、赤く濁った水路から一歩離れる。

声はまだ荒い。

なのに、追い打ちの軌道だけは、そこで切れた。

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