第67話 告げずに
イグニスは、部屋を出ても足を速めなかった。
セレスティーヌの悔しさは分かった。
七嵐が恐ろしいのも分かった。
それでも、胸の奥は同じ温度ではなかった。
白を迎える思想に、心の底までは賛同していない。
純白の完成より、強い相手とぶつかる方が先に来る。
抑えられ、配置され、端の番号の観測に回される日々が、長い。
『暴れ足りない』
声には出さない。
出す相手もいない。
彼は強い。
セレスティーヌ側の実戦でも、上位に入る。
なのに今夜も、敗報を聞く側にいた。
06や07に当てられる駒でもなく、本命の許可も降りない。
三傑は別格。
03は感情ごと刈る。
その言葉が、逆に火をつけた。
別格なら、測る。
許可は要らない。
告げれば止められる。
だから告げない。
雨の匂いが、街の東から濃くなる。
環象社のランクはまだ上がらない。
なのに、雨の質が違う。
イグニスは武装を確認し、人の流れと逆へ入る。
セレスティーヌの思想を運ぶためではない。
自分の強さが、どこまで通じるか知るためだ。
『チビ女が三傑、か』
先に聞こえた評価が、舌の上で苦い。
会って、確かめる。
勝てるかどうかより、ぶつける相手として足りるか。
濃い雨が、視界を細くする。
その奥で、小柄な影が鎌を担いで立つ気配がした。
見つけた。
まだ、言葉は交わしていない。
なのに、イグニスの口端が、戦いの形に寄る。
告げずに来た夜が、ここから本丸へ入る。




