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第62話 深入りするな

指定された部屋は、想像より普通だった。

加賀美イサオは、上層ぶった声も態度もしていなかった。

なのに、空気だけが低かった。

「白石アヤ。広報だな」

「はい」

「私用で、私に何の用だ」

アヤは、手元の資料を開かなかった。

開いた瞬間に取り上げられる気がした。

「黒鋼と、環象社の一部が繋がっています。

 回収を優先している。排除が目的ではない」

イサオは否定しなかった。

肯定もしなかった。

「それで」

「私の姉は、計画に関わっていました。

 その顔を持った個体を見ました。

 雷の現場です」

短い沈黙。

イサオは窓の外を見たままで言った。

「深入りするな。

 お前の部署に戻れば済む話だ」

「済みません」

「済む。

 表に出すな。書くな。追うな」

アヤは、その平坦な声にこそ本音があると感じた。

「あなたは、知っている」

イサオがようやくこちらを見た。

「知っている人間は、何人もいない。

 そのうちの一人が、私だとしても、

 お前に話す理由はない」

「息子さんにも、話していないんですか」

その一言で、イサオの目が少しだけ止まった。

怒りではなかった。

確認だった。

「……加賀美カツヤは、現場だ。

 現場は、現場の仕事をすればいい」

アヤは、そこで引き下がった。

これ以上は何も出ないと分かった。

退出するとき、イサオが背中に向けて言う。

「白石。

 生きたいなら、記録するな」

アヤは振り返らなかった。

答えは得られなかった。

代わりに、次に会うべき人間の輪郭だけが残った。

現場にいる、加賀美。

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