第61話 上を当たる
アヤの私用メモに、新しい線が引かれていた。
姉の提供記録。
白き終焉の語。
01 / LIGHT--- の欠損ログ。
そして、黒鋼の回収優先。
単独では弱い。
重なると、環象社の表層だけでは説明がつかない。
昼のアヤは、いつもの文面を整える。
夜のアヤは、公開情報と現場時刻のズレを重ねる。
その過程で、何度か同じ姓に突き当たった。
加賀美。
黒鋼側の決裁に近い位置で、名前が上がる。
末端の隊員名ではない。
方針の出元に近い、上層の名前だ。
加賀美イサオ。
アヤは画面を見たまま、しばらく動けなかった。
広報の権限で、直接会える相手ではない。
会いに行けば、深入りは確定する。
イサオの「記録するな」が、先に聞こえる気さえした。
それでも、上を当たらなければ止まる。
現場の影は追えても、構造は見えない。
姉の顔が、どこで誰の判断により残ったのかも見えない。
私用メモの端に、短く書く。
『加賀美イサオ。当たる』
習慣のメモではない。
重みのある私用だ。
翌日、アヤは表の予定を最小限にし、非公式の経路を辿る。
環象社の同僚には「取材調整」とだけ残す。
嘘ではない。
全部でもない。
夜の外郭で、黒鋼側の案内が短い場所を指定してくる。
相手の都合だ。
拒まれなかったこと自体が、すでに答えの一部だった。
アヤは端末をバッグにしまい、私用メモだけを内側のポケットへ入れる。
記録するな、と言われる前に、残すものを選ぶ。
上を当たる。
答えが出なくても、次の人の輪郭は得られる。
その決意だけを持って、彼女は指定された扉の前に立った。




