第58話 残響
廃ビルの上階で、【01(ライトニング)】は鞘に手を置いたまま立ち尽くしていた。
雷の声は、遠い。
なのに、指が離れない。
白い残響が、街の底で薄い。
リェンを斬った夜より、輪郭がはっきりしている。
再燃ではない。
誰かが、名前を呼んだあとの感触に近かった。
『……終焉』
誰にも届かない声だった。
通信先はない。
応答もない。
布の下で、光を失った眼が開いている。
00の起動の夜、視界が消えた感触が、残響に重なる。
許さない、と斬った。
斬っても、白は街から完全には抜けない。
遠方で、【02(ヘイル)】が砲の冷却を確認する。
01の方向から来る気圧の変化だけは分かった。
『お巫女、また焦ってる』
追わない。
追う理由がない。
【03(レイン)】は別の街区で雨の残りを刈りながら、空を一瞥する。
『……重い』
それ以上は言わない。
【01(ライトニング)】は棟を出ない。
今すぐ斬る対象は見えない。
見えないまま、電磁の流れの端に白いノイズが混じる。
白き終焉。
人は災害と呼ぶ。
彼女にとっては、終わっていない何かの残響だ。
名前の核心は、まだ誰にも話さない。
話せない。
話す相手も、揃っていない。
環象社の定型が、遠くで流れる。
「現在、大きな発令はありません」
発令がなくても、彼女の背中は緩まない。
青は、まだ戻っていない。
白の残響だけが、静かに焦りを積ませていた。




