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第53話 辛勝と退避

熱の中で、矢と刃が何度目かの交差を終えた。

【04(イラプション)】の装甲は裂け、右臂にもヒビが走っている。

ガルスも膝をつき、肩から下が動かない。

どちらも、次の一撃で終わる距離にいた。

「まだ、立つのか」

ガルスの声が、血と熱で掠れる。

『……渡さない』

最後の矢が、最短で走る。

華麗ではない。

残った出力を、一点に束ねただけの矢だ。

ガルスの体が後ろへ倒れる。

完全な沈黙ではない。

だが、もう確保の手は上がらない。

【04(イラプション)】も、その場に片膝をついた。

勝ち、と呼ぶには汚すぎる。

それでも、渡さなかった。

遠方で、環象社の拡声器が遅れて流れる。

「噴火性の異常は収束に向かっています」

【04(イラプション)】は弓を支えに、ゆっくりと立つ。

追撃はしない。

今の出力では、次を受けられない。

『……退避』

短く自分に言って、熱の残る街区から身を切るように下がる。

人の気配の薄い廃工場の奥に入り、壁に背を預ける。

大弓は大きく破損している。

右臂の装甲にもヒビが残る。

ガルスの打撃が、確実に負荷を残していた。

人間なら治療が必要な傷だ。

彼女の場合は、違う。

壁に背を預け、静かに目を閉じる。

体内で、修復プロセスが自動的に起動する。

現象核から供給されるエネルギーが、損傷した骨格フレームと装甲の結合部へ優先的に回される。

微細な構造が破損部位を走査し、欠損した部分を再構築し始める。

金属が軋むような、ごく小さい音が体内で続いた。

完全に戻るには時間がかかる。

特に大弓の損傷は深く、戦闘用の出力を安定させるにはまだ足りない。

『……六十パーセント、か』

短く現状を確認し、目を開ける。

七嵐の体は、人間のように「治す」のではない。

自らを「再構築する」。

ただし、エネルギーと時間が必要で、無制限に再生できるわけでもない。

中枢を正確に破壊されれば、修復は追いつかない。

08がそうだった。

【04(イラプション)】は破損した大弓を膝に置き、修復を加速させるために余分な機能を落とす。

感覚の一部を閉じ、出力を内部へ集中させる。

その静かな作業の最中でも、外部の気配を完全には切っていなかった。

黒鋼の人間たちが、再び近づいてくる可能性を、冷静に計算に入れている。

修復が終わるまで、無理はしない。

それが、彼女の流儀だった。

工場の闇の中で、装甲のヒビが、ごくゆっくりと光を帯びて塞がっていく。

その呼吸が整いきる前に、次の足音がなった。

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