第52話 抑止の外
黒鋼の上位が、噴火の歪み現場へ投入された。
末端の回収班とは違う。
指令系統も、現場権限も、知り得る情報の層が違う。
カツヤらが触れるのは『壊すな、拾え』という結果の文言までだ。
ガルスの位置には、対象の個体差、過去の交戦評価、確保の優先順位が落ちている。
七嵐を、ただの危険物では見ていない。
戦力として認識し、番号ごとの癖を追える側だ。
それでも、彼女たちが何者で、誰の意思で動いているかまでは持たない。
持っているのは、確保に必要な実務だけだった。
環象社のランクはB。
地面が熱を持ち、舗装が裂ける。
【04(イラプション)】は高所から矢を番え、核を逸らす作業に入っていた。
その背後で、足元の空気が変わる。
「対象04。回収対象」
低い声だ。
末端の装備ではない。
間合いの取り方も違う。
ガルスが、熱の中を歩いてくる。
『……下がって』
【04(イラプション)】は短く言う。
抑止の言葉だ。
普段なら、これで距離が生まれる。
ガルスは止まらない。
「下がるのは、そっちだ。
俺は拾いに来た」
矢が放たれる。
地面を叩き、熱の筋を裂く。
ガルスはそれを読んで横へ滑り、距離を詰める。
速い。
末端の兵士とは桁が違う。
【04(イラプション)】は連続で矢を置く。
殺さない。
近づけない。
抑止力としての射線。
なのに、ガルスは射線の隙間を踏んでくる。
「三傑じゃねえ。測れる」
短く、戦闘者の評価だった。
侮りではない。
測った上での突入だ。
末端が噂でしか知らない格の差を、彼は実戦データとして踏んでいる。
弓と刃が交差し、熱の粉が散る。
【04(イラプション)】の矢がガルスの肩を浅く抉る。
ガルスの一撃が、04の装甲を叩く。
初めて、抑止だけでは足りない相手が正面にいた。
『……本気で来るのね』
「回収だ。壊しはしない。動きを止める」
本戦は、ここからだった。
遠方で、黒鋼の末端が固まる。
彼らの権限では、この衝突の意味まで読めない。
読めるのは、上位が直接出たという事実だけだ。
【04(イラプション)】は矢を増やし、熱の歪みと敵の両方を同時に見る。
普段はやらない形だ。
やらざるを得ない形だった。
ガルスが笑わない顔で言った。
「逃げないなら、確保する」
『逃げない。
ただし、渡さない』
次の矢が、夜の熱の中で光る。




