第51話 焦る気配
廃ビルの上階で、【01(ライトニング)】は鞘に手を置いたまま立っていた。
雷の声は、今は遠い。
なのに、指先が離れない。
白い残響が、薄い。
リェンの件で一度上がった粒子の感触が、街のどこかに沈んだまま消えていない。
完全な再燃ではない。
なのに、無視できるほど小さくもない。
『……まだ、残ってる』
誰にも届かない声だった。
通信先はない。
応答もない。
彼女は棟を出ない。
今すぐ斬る対象も見えない。
見えないまま、電磁の流れの端に白いノイズが混じる。
同じ夜、別の区画で【02(ヘイル)】が砲の冷却を確認していた。
点火の臭いは薄い。
薄いが、01の方向から来る気圧の変化だけは分かった。
『お巫女、焦ってる』
短く呟き、追わない。
追う理由がない。
三傑でも、互いの内側までは踏み込まない。
【03(レイン)】は雨の残りを刈りながら、空を一瞥する。
『……なんか、重い』
それ以上は言わない。
言っても、01は答えない。
【01(ライトニング)】は布の下で、光を失った眼を開いたままにする。
00の起動の夜、視界が消えた感触が、薄い残響に重なる。
許さない、と斬った。
斬っても、白の気配は街から完全には抜けない。
遠方で、環象社の定型が流れる。
「現在、大きな発令はありません」
発令がなくても、彼女の背中は緩まない。
青は、まだ戻っていない。
白の予兆だけが、静かに焦りを積ませていた。




