50/107
第50話 決意と
アヤの私用メモの冒頭に、短い一文が増えていた。
『提供は、事実に近い』
塗りつぶされた記録の姓。
在籍時期。
雷の現場の横顔。
どれも単独では弱い。
重なると、もう仮説では済まなかった。
昼、アヤは定例の発表文を整える。
『対応完了。被害は最小限』
指は正確に動く。
心は、別のページにいる。
夜、彼女は再び資料室の申請履歴を見直す。
却下。
一部開示。
黒塗りの海。
その中で、姉の部署名だけが何度か浮上する。
『特殊適合』
『外見』
『提供』
言葉は繋がらない。
なのに、現場で見た目隠しの女の輪郭が、写真の姉と重なる。
アヤはメモに書く。
『雷を追う。
次は規制の外で終わらせない。
顔の由来を確認する』
習慣のメモではない。
重みのある私用だ。
窓の外で、遠い雷注意の下書き通知が光る。
まだ発令ではない。
予兆だけだ。
アヤは端末を閉じ、姉の写真を一度だけ見る。
慕っていた。
跡を追った。
なのに死は小さく処理され、顔だけがどこかへ残った可能性がある。
「……会いに行く」
声は小さかった。
誰に向けたのか、自分でも分からない。
雷が立てば、行く。
その方針だけが、今夜の部屋で一番はっきりしていた。




