第5話 チビ
雨が、戻ってきていた。
雹のあとの湿った空気に、今度は細い雨筋が混じる。
環象社のランクはC。
避難は続く。
路地の奥で、水が刃のように立ち始めた。
そこにいたのは、小柄な影だった。
大鎌を担ぎ、雨を纏い、感情の波をむき出しにしている。
【03(レイン)】は笑っていた。
『邪魔』
短く吐き捨て、鎌を振る。
雨が軌道を変え、壊れたフェンスをまとめて薙ぐ。
丁寧さはない。
あるのは、速度と、切り捨てる意志だけだ。
その背後から、低い声が落ちる。
『チビ、やりすぎだろ』
【02(ヘイル)】が、蒸気の向こうに立っていた。
砲は担いだまま、撃つ構えにはしていない。
【03(レイン)】の顔が、一瞬だけ歪む。
『あぁん?!誰がチビだ!!その呼び方で呼ぶな』
『呼びたいから呼んでんだよ、チビ』
『殺すぞ』
『お前が先に暴れてんだろ』
雨脚が強くなる。
【03(レイン)】は鎌を構えたまま、一歩踏み出す。
だが、その一歩は届かない。
【02(ヘイル)】が砲口をわずかに下げただけだった。
威圧というより、面倒を先に潰す動き。
『鎮めろ。遊ぶな』
『……あたしは遊んでない』
『遊んでるに見える』
【03(レイン)】は舌打ちをし、鎌の先を地面に落とす。
雨が、少しだけ丸くなる。
完全に収まったわけではない。
それでも、暴発の芯は折れた。
遠くで、環象社の拡声器が流れる。
「降雨が収束に向かっています」
二人の会話は、誰にも届かない。
【03(レイン)】が、ずぶ濡れの髪を払い上げる。
『02はうるさい』
『08のあとも残ってんだ。余計な手間増やすな』
『知ってる』
『知っててやれよ』
【03(レイン)】はそれ以上反論せず、背を向ける。
小柄な体が、雨の奥へ溶ける。
【02(ヘイル)】は追わない。
追う必要がない。
通りには、水音だけが残る。
言い合った後の余韻と、収束の報告だけが残る。




