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第48話 それ以上でも、それ以下でもない

【06(ハリケーン)】が犬を抱えて通りの奥へ歩き出したとき、リンが先に動いた。

物陰から一歩だけ出る。

「……待って」

声が震えた。

【06(ハリケーン)】は止まった。

敵意というより、警戒に近い目を向けてくる。

『近づかないで』

短かった。

『……見てしまったのなら、もう帰って』

カツヤが、リンの肩の前に半身を出す。

「俺たちは、敵じゃない」

【06(ハリケーン)】は犬を抱き直したまま、少しだけ首を傾げた。

『敵じゃなくても、関係ない』

カツヤは、その場から動かなかった。

銃は下ろしたまま、声だけを落とす。

「お前たちは、一体何ものなんだ。

危険を脅かす存在じゃないのか」

風が一度、弱くなる。

【06(ハリケーン)】は犬の頭を片手で押さえたまま、静かに答えた。

『私たちは、気象の歪みを正すために作られたアンドロイド。それ以上でも、それ以下でもない』

それ以上の説明はなかった。

自己弁護も、敵意も、誇示もない。

事実を置いただけだった。

『邪魔しないで。それだけ』

【06(ハリケーン)】はそう言って、犬を連れて通りの奥へ歩き出す。

リンは追わなかった。

カツヤも、それ以上は聞かなかった。

二人は、倒れている部隊と、去っていく背中を見ていた。

答えは、短すぎた。

なのに、十分だった。

英雄ではない。

無差別に人を害する存在でもない。

気象の歪みを正すために作られた、ただのアンドロイド。

カツヤが、ゆっくりと息を吐く。

「……危険な存在、じゃなかったんだな」

声に、力はなかった。

なのに、どこか楽になっていた。

リンは、自分の手が震えていないことに気づいた。

04に助けられた夜から、ずっと胸のどこかで張りついていたものが、静かにほどけていく。

「うん。……もう、怖がらなくていいんだね」

カツヤは答えなかった。

ただ、銃を完全に下ろして、【06(ハリケーン)】が消えた方を一度だけ見た。

空は、まだ少し濁っている。

それでも、二人の足取りは、来るときより軽かった。

知ってしまった重さは残っている。

だが、その隣に、初めて小さな安心が座っていた。

七嵐への疑念は、この夜、消えた。

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