第46話 風の交戦
風が、港寄りの通りで強くなっていた。
環象社のランクはC。
看板が揺れ、傘が裏返り、人が身を屈めて走る。
加賀美リンは誘導の途中で足を止め、端末の地図を見た。
規制線の内側で、通常の作業員ではない装備が動いている。
カツヤからの文が届く。
『近づくな。黒鋼じゃないのがいる』
『位置は』
『東の倉庫寄り。俺も離れて見てる』
リンは本来の経路から外れる。
外れると決めている自分に、もう驚かなかった。
通りの先で、長槍を持った影が風を裂いていた。
【06(ハリケーン)】だ。
気流を上へ逃がし、歪みの核を削る。
その周囲を、環象社側の実戦部隊が囲み始めていた。
制服の色は環象社でも、動きは回収と拘束に寄っている。
「対象06。囲め」
「壊すな。動きを止めろ」
【06(ハリケーン)】は槍を低く構える。
『退いて』
殺意は薄い。
それでも風が兵士の足場を崩し、距離を作る。
争いは好まない。
だが、退かない相手には手を返す。
リンは物陰から、その一部始終を見ていた。
04のときとも、02のときとも違う。
穏やかな声で、確実に押し戻している。
同じ角の向こうで、カツヤも車両の陰にいる。
黒鋼の回収班は、今夜は一歩引いていた。
環象社側が先に噛みついているからだ。
「なんだあれ。環象社が直接やってるのか」
隣の隊員が呟く。
「上は様子見だ。今は拾うな」
カツヤは銃に手をかけたまま、動かない。
倒すべき影が、また被害を止めている。
止めたあとで囲まれる側に回っている。
【06(ハリケーン)】の槍が回り、風の牙が折れていく。
収束は近い。
なのに人間側の包囲は解けない。
『私は、歪みを正してるだけ』
誰にも届かない言葉だった。
届かないまま、次の一歩がどこへ向かうか、通りの空気が張りつめていく。
リンとカツヤは、まだ互いを見ていない。
同じ交戦の外縁に、別々に立っていた。




