第45話 提供された顔
アヤの私用メモは、日付の隙間を埋め始めていた。
姉が在籍していた頃の公開記事。
プロジェクト名のない表彰。
人事の移動記録。
表に残っているものは少ない。
少ないなりに、線は引ける。
姉は、ただの一般職員ではなかった。
少なくとも、気象関連の特殊枠に触れる位置にいた。
『データ提供』
メモの端に、その文字を書く。
根拠はまだ弱い。
だが、現場で見た瓜二つの横顔と、姉の在籍時期が重なりすぎている。
昼のアヤは広報文面を整える。
夜のアヤは、社内の古い資料室申請を繰り返す。
却下されることも多い。
通っても、黒い塗りつぶしが多い。
その夜、一枚だけ、欠損の少ない用紙が残った。
件名は薄い。
『外見適合・提供記録(抜粋)』
中身のほとんどは消されている。
残っていたのは、日付と、短い一行だった。
『提供同意:白石——』
姓の途中で切れている。
それでもアヤの指は、紙の上で止まった。
姉だ。
姉以外に、この時期に同じ姓で重なる記録を彼女は知らない。
部屋に戻り、私用メモへ移す手が震える。
習慣のメモではない。
重みのある私用だ。
『姉は生前、外見データを提供した可能性がある』
『雷の個体は、その顔を持っている』
結論にはまだ届かない。
届かないまま、雷を追う理由だけが太くなる。
窓の外で、環象社の夜勤灯が白い。
表では安心を作り、裏では提供の記録が塗りつぶされる。
アヤはその両方に、片方ずつ足を踏み入れていた。
次に雷が立てば、規制線の外で終わらせない。
顔の由来を、自分の目で確認する。




